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第四章・10

「亮太……、亮太!」  バタバタと廊下を走る慎に、看護師が注意した。 「病院では、お静かに!」 「すみません!」  慎は駆け足を早歩きに替えて、亮太ともう一人の待つ病室へ飛び込んだ。 「亮太! 大丈夫か? どこか痛くないか?」  ベッドに横たわっている亮太は、柔らかな笑みで慎を出迎えた。 「麻酔が効いてるから、大丈夫」 「ごめんな、立ち会えなくって」 「出張だから、仕方がないよ。予定日より、早かったし。それより、抱いてあげて。僕たちの赤ちゃん」  亮太の隣の小さなベッドには、これまた小さな赤ちゃんが眠っている。  慎は、甘い香りの赤ん坊を慣れない手つきで抱き上げた。 「可愛いなぁ~」 「初夜で授かるなんて、思ってなかったけどね」  うん、でも今なら解る。  あの時、脳裏に甦った優しい人のせいだ。  慎は、亮太に語りかけた。 「この子の名前なんだけど」 「多分、僕の考えと同じだよ」  慎は、にっこりとうなずいた。 「晶、にしようか」 「賛成」  何年もかけて、晶はここに生まれ変わった。

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