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まあるい気持ち【瑠生】8
適当な逃げ口上の所為で、俺は大崎と図書館にいる。駅前にある市立図書館には試験前の学生で溢れていた。
2人がけのテーブルに並んで座る。というか、そこしか空いていなかった。区切られた空間はちょっとした閉塞感がある。行き場の無い自分の想いを表しているようで、自虐気味に笑いたくなった。
隣に大崎がいる状況を意識するあまり、勉強どころではなくなっていた。適当に教科書を捲り、時間を持て余す。
ふと窓の外に意識を投げた。深まる秋から冬が始まろうとしていた。冬は、あまり好きではない。
「…………下、宮下、聞いてる??」
「…………………………え、あ、ああ……何だった」
周囲の迷惑にならないよう、小さな声で試験範囲を確認された。慌てておれが頷くと、今度はライトグリーンのノートへ文字を興し始めた。筆談に切り替えたらしい。
『さっき近藤に何か言われた?』
『??』
『嫌なこと。宮下の悪口とか』
『言われてない』
『なら良かった。様子がいつもと違うから』
大崎は顔色1つ変えない。
『どうして』
『ん?』
『そんなに俺のこと気にかけてくれんの?』
大崎とつるむようになってから、いつも気になっていた。心地よい大崎の気回しに慣れてしまい、かなり甘やかされてきたと思う。
サッカー部の頃はチーム内でのポジション争いで常に必死だった。心休まる時は無く、いつも1人で戦ってきた。俺のメンタルを気にかけてくれる奴なんか誰もいなかった。
『それは…………』
俺の質問に答えるかどうか躊躇うように、シャーペンの先が何度もノートをノックする。
『……………………宮下は俺の憧れだから』
サラサラと、綺麗な字が紙に流れる。
『サッカー部を辞めても、宮下は宮下だから。俺にとっては、ずっと憧れの人。不動の1位』
「………………な…………えっ…………」
思わず声にならない大きな音が口から出た。
(ヤバい。不動の1位って表現、嬉しすぎる。勘違いしそうだ)
あまりに不躾な質問だと、気付いた時には俺の出した奇声に注目が集まっていた。慌てて小さく座り直す。
『あまり悩まないでほしい。宮下のことは俺が守りたい。何でも相談して』
力強い筆跡が決意を物語っている。
ふと隣を見上げると、大崎がふわりと笑った。なんというか、その横顔が格好良すぎて見惚れてしまう。目が離せない。
心臓が爆発しそうなくらい早い。必死で全身に血液を送っていた。息も出来ないくらいに苦しくてどうにかなりそうだった。
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