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まあるい気持ち【瑠生】7
気が進まない。断るにも疲れてきた。果たして近藤は、どうにかなると思っているのだろうか。互いに進む道は決まっている。駄々を捏ねる子供を相手にするほど俺は大人ではなかった。
「……んもう、いい加減に……」
しろ、と比較的大声を出しかけた時だった。
「しつこいんだよっ、この単細胞」
大崎が近藤の横面を容赦なく蹴ったのだ。
土下座体制から、近藤の身体が横に吹っ飛ぶ。全てがスローに見えた俺は、大いに慌てた。
痛い痛いと、近藤は唸る。倒れたまま海老のように腰を曲げていた。
「こ、近藤…………大丈夫?どこが痛い?」
「…………う、う……顔が……いってぇ…………」
ゆっくり身体を起こしてやる。可哀想なことに、彼の右頬は真っ赤になっていた。
側にあった水道でハンドタオルを濡らし、彼の右頬にあてがえると、近藤が涙目で訴えかけてきた。
「お、俺……瑠生がいなかったらサッカーやってる意味が無い。だから戻ってきて欲しい。みんなも待ってる、と思う……瑠生……瑠生」
この期に及んでまだ言っている。彼のしつこさには脱帽だ。
「悪いけど、俺は戻らないよ。サッカーには未練はない。今はフットサルをやってる。膝と相談しながら、このままフットサルを続けていきたいと思ってるんだ。近藤、ごめん……こればかりは何度言われても変わらない」
実際問題、個々の集まりであるサッカー部内では競争が激しい。俺が辞め、ざわついた部内はレギュラー争いが更に激しくなったことだろう。
俺にはそこへ再び身を投じる覚悟や余裕がもう無い。今の暮らしは新鮮で学生らしいと思うのだ。とても充実している。
「…………フットサルって?」
「大崎の従兄やってるフットサル場があって、そこでボール蹴らせてくれる」
近藤の表情がぱっと明るくなった。
「俺もやりたい。行っていいか?」
「君には部活があるでしょ」
「瑠生が居ないサッカー部は楽しくない。行く意味が無いから」
今度は駄々を捏ね始めた。唇を尖らせて可愛く見せようとしているらしいが、全くもって見えない。
「ズル休みがバレたら、どうなるか分かってんの?」
「だから、辞めてもいいって言ってるだろ」
何を言っても無駄だ。聞く耳を持とうとしない。
俺が困った視線を投げかけると、大崎も観念したように首をすくめた。
「…………好きにすれば……?」
「わーい!!テスト期間が終わったらフットサルに参加する。そうと決まれば、今から俺とテスト勉強しようよ!!」
「いや、テスト勉強は、大崎と約束しているから…………だめだ」
ぐいぐいと迫る近藤から逃げるため、事実ではない言葉を咄嗟に口にしてしまった。
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