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まあるい気持ち【瑠生】6

テスト前期間に入った。 あの晩のことで胸がざわつき、収まる気配が全くない。迷った挙句、勉強を口実にフットサル場へ通うのを暫く休むことにした。 何が恥ずかしいかと問われたら、とても言葉にしづらい。というか、考えても答えが出ない。普通に歳を重ねていれば、悩んだり考えたりして自分なりに結論が出るだろうが、俺には唐突過ぎた。自分のセクシャルマイノリティが、いきなり俺へ認知を求めてきたのだ。 どうやら俺は同性の男が恋愛対象らしい。 あの日以来、世界が変わって見えた。男を性的に見るとかそういうのもあるが、意味を持って輝く……とまではいかなくても、それなりに光を放っていることに気付いたのだ。 元々女子は眼中に無かった。異質な生き物にしか見えていない。俺の世界は男子とサッカーで構成されており、思考が殆どサッカーで埋まっていた。そこへサッカーが無くなれば否が応でも分かる。気持ちに余裕が出てきたのだろうが、いかんせん突然過ぎた。 「おーい、宮下ー、放課後図書館行かね?」 そんな俺を知ってか知らずか、大崎は毎日毎日誘いに来る。 「…………いい。家でするし……」 改めて大崎を観察する。背は俺より15センチは高い。短い髪の毛は襟足が少し長く、笑うと目が細くなる。俺はそこが好きだったりする。節のある角張った腕や、均整の取れたふくらはぎは、控えめに言って格好良いと思う。 身近で普通に生息していたことに驚きを覚えるくらいの俺好みである。 「ははは、大崎避けられてんの。ダッサ」 「げ……近藤がまた来た」 『近藤』というワードで我に返った。 「何しに来たんだ」 「お前には関係ないだろ。俺は瑠生に用事がある。瑠生、サッカー部へ戻ってこないか」 近藤は帰ろうとする俺の前を塞ぐように立ち、お決まりのセリフを吐く。 「何回目?俺はサッカー部に戻らないよ」 「瑠生が居ないと、俺はサッカーをやっている意味が無いんだ」 「意味が無ければ俺と同じように辞めればいい。世の中にはサッカーをやっていない人の方が多いだろ」 俺と近藤は、まるで某サッカー漫画の主人公とその相棒だとよく言われた。中学のクラブチームに所属し、全盛期にはいつもタッグを組んでいた。彼のパス回しは絶妙で、俺の動線を細かいところまで予測し、正確に打ってくる。シュートまでの黄金ラインを作ってくれた。 のは、俺にとっては遥か大昔の話である。 「…………俺の一生の頼みだ。この通り」 近藤は土下座をして俺に頭を下げる。この土下座までが『いつもの』セットであった。

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