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まあるい気持ち【瑠生】5
1ヶ月が経った。俺は篤人さんの好意に甘えて可能な限りフットサル場へ通った。
間に合えば小学生のスクールの手伝いをするし、夜に来る社会人練習へ交ぜてもらう。あくまでも趣味の範囲で、身体の負担にならないよう楽しんでいた。
別の形で自らの問題を乗り越えたつもりでいた。それくらい心身ともに健やかだったのだ。
今日もスクール生と戯れてから、社会人の練習に交じる予定で準備をしていた。隣にはいつも大崎がいる。彼の存在も心地がよかった。
「終わったら、うちにおいでよ。父ちゃんが宮下に会いたがってる」
「んー、テスト前だから帰らなきゃ」
部活動を辞めた普通の身だ。スポーツ特待生だった頃とは違い、勉強しなければならない。流石に高校留年は親に申し訳ない。勉強は出来る限りしっかりやるつもりだ。
「じゃあ、うちで勉強したらいい」
「あ、いや……」
「腹も減ったろう。ラーメン喰おうよ」
「…………でも」
「玲太。そんなにゴリ押ししたら迷惑だよ。瑠生君には瑠生の事情があるだろう。なぁ?」
話を聞いていた篤人さんが俺の肩を抱き、わしゃわしゃと髪をかきまぜた。近い距離に驚いている暇も無いくらい、髪の毛をぐしゃぐしゃにされるがままになる。
ドクン……ドクン、と心臓が音を立てて跳ねた。ありえない距離に身体が驚いたのだろうか。
(なんだろう……今の、ってか、俺、どんな顔してるか分からない。けど、顔が熱い)
「ボールから離れると瑠生君は普通の高校生だな。安心した」
「篤兄ってば、宮下に気安く触んなよっ」
「瑠生君可愛いからついつい構いたくなっちゃう」
「は、意味わかんね。宮下、こっち来い。汚い手を離せ」
「うわっ……」
大崎が篤人さんを制し、俺はされるがまま強引に大崎の腕の中へ入る。
彼からはふわりとお日様の匂いがした。
ふざけの延長線だろうか。理解しても頭が追いつかない。
「おい、宮下も嫌がらないと駄目じゃないか」
「…………あ、うん……」
「瑠生君は可愛いね。玲太とは大違い」
ちょんと、鼻先を指で軽くなぞられた。
「ほらあ、セクハラオヤジはどっか行け。宮下が怯えてる」
「なんだよー、もう。高校生達は冷たい……」
(し、しんぞうが……ばくばくする……)
それは、今までサッカーしかしてこなかった俺に原因があるのか、はたまた見て見ぬふりをしていた周りに理由があるのかは、分からない。
世の中に『恋』というものが存在するのは常識として知っている。チームメイトや、周りにいる奴らが色めき立っていたから、焦がれるものらしいのも分かっていた。が、俺には全く関係がなかった。
胸がドキドキと煩く苦しいもの。
痺れるような何とも言い難い感覚。
これは『恋』なのだろうか。
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