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第3話

アルバートさんに保護されてから、数日。 俺は、すっかり森での生活に馴染んでいた。 朝6時に起床して二人分の朝食を作り、後片付けが終わったらアルバートさんが管理している畑で農作業の手伝い、昼食作ってまた農作業に戻って、途中で休憩がてらアルバートさんとおやつ食べたりして。 アルバートさんの畑って凄いんだわ。 広大な畑には、種類豊富な野菜に果物が沢山あるし、鶏小屋とかあるから毎日新鮮な卵が手に入るし、もう完璧なスローライフ送れてるよ、俺。 夜はアルバートさんがご飯作ってくれるんだけど、料理上手なんだよなぁ。 レパートリーめっちゃ多いし、ほんとアルバートさん良い主夫になりそう…。 「んんっ!この鶏のやつ、すっごく美味しいです!このジャガイモのサラダも!」 「そうか…、いつも一人だったから私好みの味付けになっているがカイトの口に合ったのなら良かった」 「アルバートさんの作る料理で不味かったのなんて無いですよ!…むしろ、俺の作る料理のほうがレパートリーも少なくて…ほんとすいません」 俺が作っている朝と昼なんて、ほんと男の料理です!みたいな感じで、何かいっぱい入れて炒めたやつとか、煮込んだやつとか、そんな料理しか作れないから申し訳ない。 もぐもぐと口いっぱいに食べ物を含みながら、俺ってダメな奴と思っていると、不意にアルバートさんの親指が俺の口端をグッと拭う。 「……カイト、また付いていたぞ」 「……へ?…あ、あぁ…!ありがとう、アルバートさん」 俺、そんなに汚い食べ方してんのかな。 最近、さっきのようにアルバートさんに口端を拭われることが多い。 俺自身に自覚がないから、アルバートさんの指が俺の口端に触れるたびに毎回驚いてしまう。 言葉が詰まりながらお礼を言うのも恒例化していて、その度にアルバートさんの切れ長で赤い瞳が細められ、柔らかい笑みを浮かべられる。 普段、あんまり笑なわないアルバートさんの笑みは心臓に悪い。 「……ごちそうさまでした!アルバートさん、今日は俺が洗い物しておくので先にお風呂どうぞ」 「そうか、ではお言葉に甘えて先に入らせてもらう」 「はい、どうぞ〜」 食器をシンクに持って行きながら、お風呂場へ向かうアルバートさんの背中を見送る。 数日、一緒に過ごしてみて分かったことだけど、お風呂上がりのアルバートさんは、かなり無防備で無頓着だったりする。 普段からアルバートさんは表情の変化が乏しくて、なかなか感情を読み取ることが出来なかったりするんだけど…お風呂上がりのアルバートさんは、目元が柔らいでいて僅かに口元も緩んでるんだよなぁ。 洗い物をしながら、そんな事を思っているとお風呂場から上半身裸のままのアルバートさんが出てくる。 お風呂の時間、短っ!って最初は驚いたけれど、アルバートさん曰くオオカミ族は基本的に長風呂派ではないらしい。 銀色の髪から雫を滴らせながら、首にタオルをかけたままアルバートさんは洗い物をする俺の隣へとやってくる。 「はい、お水です」 「あぁ、いつもありがとう」 コップを受け取り、ふわりと柔らかく笑うアルバートさん。普段とのギャップで破壊力が凄い。 懐いてきた大型犬みたいで可愛いな、とか絶対に本人には言えないけど。 「アルバートさん、また髪を乾かしてこなかったんですか?風邪引きますよって何度も言ってるじゃないですか」 表情の変化の他に、普段は真面目で世話焼きっぽいアルバートさんだけど…何故かお風呂上がりだけは、面倒くさがりというか雑というか…髪を洗ってもタオルで拭かず、更には乾かさずに出てくるのだ。 最初の頃は口出しせずに黙っていたけど、俺の中にある世話焼きの血が騒いでしまい、最近は遠慮なく言ってしまっている。 「面倒でな…、つい…」 「ついじゃないですよ、ついじゃ…今までよく風邪引きませんでしたね。取り敢えず、髪乾かすんでそこ座って下さい」 「いや、別にこのままでも問題は…」 「座って下さい、早く」 「…………分かった」 俺の様子から逃れることは無理だと悟ったのか、アルバートさんは観念して大人しくリビングのソファに腰を下ろす。 それを確認してから、ドライヤーとブラシを持って俺はアルバートさんの前に立ち、ソファ横のコンセントにドライヤーを差し込む。 俺の住んでた世界とこの世界、電化製品とかは普通にあるし、使い方も一緒だから今のところは困らずにいるのが幸いだ。 ドライヤーとブラシを持って、にっこりと笑う俺を見てアルバートさんが、はぁ…と小さく溜め息をつく。 何回かやっているのに、アルバートさんは髪を乾かされるのが苦手らしく、不安なのか耳は少し垂れ、尻尾は小さくゆらゆらと揺れている。 飼育員やってた俺を信用してアルバートさん! なんて言える訳はないが、アルバートさんの柔らかくて艶がある髪を乾かすのが最近の俺の癒しなので、アルバートさん大人しくしてて下さい。 そうして俺は、一日の日課となりつつあるアルバートさんの髪を乾かし始めたのだった。

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