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第2話

 ここに戻って来たのっていつだっただろう?  懐かしくも見慣れた「矢吹」と書かれた表札を見ながらふと思った。  地元でも有名なやんちゃ揃いの工業高校を卒業して、「都会」という名前に憧れ、地元を離れ就職を望んだ。  やんちゃな高校時代でも成績はそこそこだったおかげで、有名製造業に就職をして早十年。二十八になった俺が再びこの地に戻って来たのは、新入社員や新入生などの新生活賑わう春先だった。  就職難だったあの時代であっても、就職第一優先の工業高校は、成績次第で人気企業は選べる。当時仲良くしていた連中とはそれなりに連絡は取っていたが、実際地元に戻って来たのは数える程だった。  住み慣れた土地を離れての生活は初めこそは戸惑ったものの、年中問わず暑い工場内で汗を流し、体力を駆使しながら働いていて、なんどか地盤を固めていった。それなりに順風満帆の生活を送り、その後結婚もした。  結婚後は新たな生活を送る為、そして互いの幸せの為にときつい三交代も頑張ってマイホーム資金も溜めた。けどそんな幸せは二年であっさりと終わってしまった。  十年務めた大企業を退職し、今年春に地元へと戻って来た。 「浩二!いきなり離婚してこっちに戻って来たと思ったらそのまま脱サラしたなんて!」  十年住んでいた場所から送り届けられた荷物を運んだり荷解きをしながら母親は呆れながら俺に言った。それもそうだろう……結婚の報告で一度は地元に戻ったが、それ以外は音沙汰なしで急に戻って来ては離婚、退職しての出戻りだ。 「何も言わなかったのは悪かったって!仕事もこっちで探すし、そのうち家も出て暮らすから!」 「そうして頂戴。とにかく……一体何があったのかくらい話なさいよ!」 「はいはい……」  正直この話はあまりしたくないと思ったが、両親には言っておかないといけないだろう。その日の晩にはこうなった経緯を両親に話した。  そして翌日。浩二が戻って来たと聞いた高校時代の旧友が「矢吹浩二出戻り飲み会」なるものを開いてくれた。 「ホント久しぶり!てかまさか離婚したんだな?」  旧友連中がビール片手に俺にあれこれと聞いてきた。

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