3 / 63
第3話
十年……
皆、高校時代のやんちゃな面差しを残しながらも、就職して結婚した者もいれば、すでに子供がいたりマイホームを手に入れたりし、幸せそうにしているやつらもいる。中には自分で会社を興した者もいた。そんな当たり前の人生を送る懐かしい面子に、都会に揉まれ見た目も中身も変わった俺は、これまであった辛かった日常を忘れ久々にはしゃいだ。
「まったくこっちに顔出したりしなかったのは悪かったって!」
「おう!まったくだぞ!にしても結婚して離婚。よくある話だけど、それに加えてあの会社を辞めたんだろ?何かあったんだろ?」
そう聞いてきたのは高校時代一番仲の良かった中沢裕生だ。
「まぁな……」
言いにくそうに答えた俺に中沢はこれ以上を咎めたりしなかった。
「それでお前……仕事はどうすんの?」
「まだハロワ行ってないけど明日辺りにでも行って探すよ」
「ふーん……まっ、俺らみたいな高卒者の職なんて同じ系統しかないだろうけど、お前仕事してる時にそこそこ役立つ資格持ってるんだろ?だったら大丈夫だろ!」
中沢の言うように所謂ガテン系の資格なら仕事に必要だったのもあり沢山持っている。なので次の就職先も同じような製造業だろうと思っているし、正直身体を動かす仕事の方が慣れているので、そういった仕事を希望している。
「お前は今何してんの?たしかお前の就職先って地元の化学メーカーだったよな?」
「あぁ……あそこは二年で辞めて、今は出身校の教師」
「教師?お前が?」
「おう!辞めた後に大学言って免許取った!」
元々学年トップだった中沢らしいと言えばそうなのだが、まさか大学行って教師になっていたとは驚きだ。しかも卒業した工業高校の機械教師だと中沢は教えてくれた。
「時代も変わればガキも変わるもんだな。今のガキなんて素直で大人しいのばっかだぞ!俺らの時なんてやれ停学だの退学だのなんて日常茶飯事だったのにな!」
「あぁ……思い出した!てかホント成績だけはそこそこ良くてもけっこう荒れてたもんな!」
懐かしい学生時代の思い出を話していた俺と中沢。そしてこの飲み会に参加していた他の連中も、十年前に戻ったかのように懐かしい話をした。
酔いもほろろに回って来た時、中沢が俺に話を持ちかけた。
「どうせだったらOBとして明日学校に来いよ!」
「えぇ?何でだよ。別に用もないし……」
「固い事言うなって!俺の教師姿見たくないか?それに麻生先生まだいるぞ」
「そうなの?」
正直言って中沢が教師面している様はどうでもいいのだが、麻生先生は俺の元担任だっただけにいろいろとお世話になった。しかもまだいたんだと内心驚きと懐かしさで一杯だった。
「んじゃ、麻生先生にも言っとくから絶対に来いよな!」
「おいおい…勝手に決めるなよ……まぁ、暇だからいいけど……」
断る理由もないので俺は翌日約十年ぶりに学校へ行く事を約束した。
ともだちにシェアしよう!