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第12話
伊織の腕が俺の首に巻きついてきたと思ったら、そのまま抱きしめられる形になった。俺は俺で必死に押し返そうとしたが、伊織は意外にも力があった。ガテン仕事で体力も筋力も自身のある俺だが、こうもびくともしないとは……
「結婚したって聞いた時はショックだった。これは悪夢だって……だから早くこの悪夢が終わればいいって思ってた」
「おいおい……俺の人生を悪夢呼ばわりするなよ……」
「けど、こうして戻って来た。だから俺、絶対にコウちゃんを貰うから」
「貰うって…俺は何かの景品とかじゃ……んん!」
言葉を最後まで言うこともなく俺は再び伊織にキスをされた。しかも今度は舌まで入れてきた。
「ちょ……伊織……まっ……」
縦横無尽に舌が口腔を舐っていく。十代のガキのくせに伊織のキスは上手いと思った。俺は何とか引きはがそうと抵抗するものの、力では効かないし、深々と暴れる舌に息も切れ切れになって呆然としてきた。
それを狙っていたのか、伊織はそのまま俺を押し倒した。
「ねぇ、コウちゃんの全部、俺にちょうだい」
何を言ってるんだ!と俺は伊織に言おうとした。だが伊織の目は悲しそうで、そして追い詰められているかのような表情だった。とても反論出来る感じではないが、それでも引き離さなくてはと思った。
「と……とりあえず落ち着け。そして俺の話を聞け!なっ!」
ピタリと手を止めた伊織が今度は不満そうな顔で俺を見る。
「俺はさっきから落ち着いてるんだけど……」
「そうじゃなくて、まずいきなりこんな事したら未成年とは言っても強姦だ。犯罪だぞ」
「コウちゃんだったら犯罪犯してもいい」
「馬鹿言うな!まだまだ未来ある若者が人生諦めたみたいな事を言うなよ」
なんとかその気がそれた気がしたので、俺は上半身を起こし、伊織と向かい合う形を取った。
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