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第11話
「ん……」
なんだか息苦しいと思った。何か上に乗っかってるような、そして息が上手く出来ないような……そんな感覚がした。金縛りにでも合ったのかと思ったが、その類のものとは何か違う気がした。
とりあえず目を覚まそう。そう思って薄らぼんやりしている頭をフル回転させ、俺は目を開けた。すると伊織の顔が妙に近い気がした。近いと言うか、俺の上に乗っかってないか……
「伊織?」
「あっ、コウちゃん起きた?」
「あぁ……」
呆然としている俺だが、何故こんなにも近い位置に伊織がいるんだ?それに電気消えてるし。そんな事を考えていると、伊織の顔がまた近くなった。
「っ……ん!」
近くなったんじゃない。伊織が俺にキスをしているんだとはっきりわかった。
「ちょ……ちょっと待て!お前何して……」
「何って、キスだけど……」
「それはわかるが……」
酔った勢いじゃないし、何をしてるんだと思ったが、問題はそこじゃない。俺は上に覆いかぶさるようにしている伊織の胸を押した。
「いきなり何してるんだよ!てかお前家に帰ってなかったのか?」
「おばさんが泊まっていいって言ったから。大丈夫、両親にも言ってるし」
言ってるしとかそういう問題じゃない。何かこの状況は危ない気がした。男だらけの環境で仕事してたのもあって、悪ふざけや男同士のあれこれに偏見はない。だが伊織の場合はそうじゃないはずだ。
「あのさ……お前俺を誰かと間違えてないか?」
「全然間違ってないよ。俺はコウちゃんの事好きだからキスしただけだし」
「はっ?」
好きだからキスをする。発想がさすが十代と思ったが、いやいや待てと俺の理性が警告を出してきた。
「お前悪ふざけもたいがいに……」
「ふざけてないよ。俺は十年も前からずっとコウちゃんが好きだった」
「何言って……だってお前彼女とかいたんだろ?」
「それとこれとは別だよ」
爽やかな王子様はとんでもない魔性だったのかと思ったが、今はそれはいい。それよりもさっきから伊織の言っている事だ。俺を好き?
「ねぇ、俺ずっとコウちゃんの事待ってたんだよ。早く帰って来てって。早く離婚しないかなって……」
「お……おい……!」
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