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第29話

「それで?本命の女ってどんな子なの?」 「年上」 「おぉ!年上のお姉さまって、伊織んの黒歴史にはなかったタイプだな!」  女じゃなく男なのだが、いろいろと面倒なのでスルーする。 「それでそれで?出会いは何?」 「出会いも何も……生まれた時から知ってるから」 「何だよそれ!もしかしてご近所のお姉さまなのか?伊織んったらそのお姉さまの事、いやらしい目でずっと見てたんだな!」 「はいはい。もう何でもいいよ」 「で?伊織んは何をそんな悩んでるわけ?」 「別にたいした事じゃない」 「ふーん……」  何やら含むような言い方をする吉崎だけど、こいつのアドバイス程役に立たないものはないので無視だ。 「まっ、爛れた恋愛擬きをしてきた伊織んにはちょうどいいかもしれないな。真剣に悩めよ!イケメン!」 「はいはい」 「って事で飯食おうぜ!」  売店で買ってきたパンを俺の机の上に置くと、勝手に昼食を始めた。俺はとても忙しい日以外はもっぱら弁当だ。今日もコウちゃんの為に弁当を作っておいたけど、食べてくれると嬉しいな。  この一週間だってコウちゃんの為に作っておいたけど、コウちゃんは綺麗に食べてくれたし、夕飯だって美味しそうに食べてくれる。それが本当に嬉しかった。 「なんだよ伊織ん。顔がにやけてる!」 「別にそんな顔してない!」 「いやしてるって!なんだか新鮮だな。伊織んが悩んだり嬉しそうにしたり。いつもはクールビューティー決め込んでるのにな。やっぱ年上のお姉さまの力は絶大なんだな」  俺としてはいつも普通にしているつもりだけど、傍から見たらそんな無表情なのだろうか?  まぁ確かに、コウちゃんがいなくなってからはそんな感情が表に出る事もなかったような気もするが…… 「でも年上ってけっこうプライド高いんじゃないのか?一緒にいて疲れるとかないの?」 「別に。どっちかというと押しに弱いと思うけど」 「何それ何それ!って事はお姉さまはもう伊織んにメロメロなんだな!」 「そうだったらいいんだけど」 「何かあるの?」 「あるにはある。けどこればっかりはどうしようもない」  そう。今まで自分が押す側だったから、逆に押される事にコウちゃんは戸惑ってるし、案外それに流されやすんだ。けどそれまでだ。そこから先はコウちゃん自身がやってくれないと俺のやってる事は意味がない。 「なんだか伊織んったらいつの間に大人の世界に飛び込んだのかしら!」  いきなりオネエ口調で気味が悪い。けどこいつも悪い奴じゃないのでそのまま話を聞いてはスルーする。

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