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第30話
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一週間のお預かり期間も終了し、伊織も俺も元の生活に戻った。
伊織の両親からはお世話になったからと松坂牛の肉を頂いて、その日は両家ですき焼きをした。
それからも普通の日常だった。伊織は学校に部活にと忙しいので、そんなに顔を合わせる事もなく、俺も俺で就活で忙しかった。受けた会社は五社程だったが、うち一つの会社で採用される事になった。石油コンビナートの会社で、工場内の配送やらが主な仕事になる。
就職も決まり、しばらくは研修期間だったので、朝早くから夕方遅くまでみっちり仕事のあれこれを聞いた。休日はその反動で寝るという。
働いて家に帰って寝て起きて、そんな普通で色気も何もない生活が続く中でも、伊織は度々会いに来た。他愛もない話をする程度だが、どうしてか物足りなさを感じた。二人っきりの時は何かしらと手を出してきていたのに、ここに来て何もしてこない。
いや、それを物足りないと思うのもどうかと思う。けど伊織と過ごした一週間は俺の中では色あせる事もなく、むしろ濃く俺の脳裏に焼き付いている。
伊織の匂いや声、手の大きさや温かさ。それら全てがよく夢に出ては俺に淫らな愛撫を施す。歳甲斐にもなく夢精してしまった事もあって、正直焦った。これは本当に欲求不満なのかもしれない。早いとこどうにかしなくては!
そうは思っても、正直女と付き合うとかそういうのに手が出ない。出す気がしない。俺の中で伊織の存在が強烈すぎるからだ。出来るなら夢でなく、現実で、伊織の触れてほしい。危うい考えがずっと巡っているから俺も相当参っている。
「はぁぁぁぁぁ……」
「何だよ!盛大にため息なんて漏らして」
ビール片手に眉をしかめる中沢。
今日は中沢と近くの居酒屋で飲んでいる。一応俺の就職祝いらしいが。
「何々?この俺が就職祝いしてやってるのにケチつける気か?」
「うるせーよ!公務員の金なんて俺らの税金から成り立ってるだろうが!」
「そういう事を言っちゃうか?ならもう帰る?すみませーん!」
「悪い悪い!嘘だから」
店員を呼びかけたので俺は止めた。正直今日は飲みたい気分だったので、中沢の金、もとい俺達の税金から出た給料を存分に出させてもらおう。
「就職決まったってのに浮かない顔してるなぁ……何か悩みでもできたか?」
「まぁ、仕事に関してはいい。プライベートがな……」
「おぉ!いい女でも見つけたか?」
「はずれ。職場の女は熟女多数だから俺の息子は反応しない」
「わかってねぇな……年上のお姉さまは甘やかし上手だぞ」
こいつは年齢関係ないだろうが……というよりも幅が広いから年上だろうが年下だろうが普通に付き合う。今現在だって女子大生とラブラブだと本人が言っているくらいだ。
「それで?この短期間で恋に落ちたって事は俺の知ってるやつ?」
「おい……別に恋に落ちてないし!」
「あっ、でも俺の知ってるやつは否定しないんだな!」
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