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これからの未来-12

****  年も変わり、世間がようやく落ち着いた頃に伊織は大学のセンター試験を受けた。正直高卒の俺には大変なのはわかっても、システムやらなんやらはわからないし、大変そうな伊織に代わってやる事も出来ない。  けど一つ、俺は伊織を信じてる。もちろん大学合格もだが、これからの未来も。だからと言うわけじゃないが、伊織が合格した日に渡そうと思って買ったものが一つだけある。  一応渡せなかったクリスマスも兼ねてだが、歳甲斐にもない意地とか、そんなのも含むわけだ。  月日は流れ、伊織は無事に大学合格を果たし、春先になった頃にこの地を離れる。たかだが隣県の大学だ。会おうと思ったらいつでも会える距離だが、あっちでの生活もあるだろうし、もちろん俺自身の生活もある。そう頻繁に会えないのは寂しいが、それも四年の間とタカを括った。いや、括らざる終えないのだが……  そうしてこの地を離れる日、俺は伊織に買っていたものを渡した。 「コウちゃん?」 「それやる……」 「えっ?」 「クリスマスも合格してからも何もやってないから……」  正直それを俺が渡すのは人生で二度目だ。手のひらに収まる小さな箱を手にした伊織が箱を開けると、プラチナのリングが現れた。それを見るのが自分でも恥ずかしい。 「これって……」 「魔除けだ魔除け!変な虫が付かないように!」  顔が火照る。伊織の顔を見るのが恥ずかしくて、そっぽ向いていたら、伊織がクスクスと笑い始めた。 「コウちゃんってホント可愛い!」 「はぁ?っておい!」  ぎゅっと抱きしめてきた伊織に俺はじたばたと暴れる。何せここは互いの家の前だ。誰か……特に両親にでも見られたらどうするつもりだ。 「コウちゃん。大好き。しばらく会えないけど、毎日電話もメールもするから」 「あぁ……」  伊織は自分の左手薬指にリングを嵌めると、ニコッと満面の笑顔を浮かべた。俺の指にも同じものがついている。これからの未来なんてどうなるのかわからない。けど、それでも俺はこいつを信じているし、伊織だけを愛し続けるよ。

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