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想われ男子 京

想われ男子 京  いやいや、何でこうなった…。  駅に向かう線路わきの一本道。賑やかに歩く仲間たちと、いつもなら隣にいるはずなのに少し離れて後ろから付いてくる弘に何かを意識していると感じずにはいられない。  格好悪いので平気な振りをしている俺だが、本当は混乱と動揺で変な汗が出っぱなしだ。  みんなで悪乗りするのはいつもの事だし、楽しければそれでいいと思っている。今やっている「最近はBLが流行ってるらしい! BでLして女子受けを良くしようゲーム」も、男友達とするラブシーンを気持ち悪いと思うより、面白そうが優ってやることにした。  正直なところ、健全な中学生なのでそういう事への好奇心もある。武や茂相手と思うと笑えるけど、弘が相手に考えたら悪くない気がした。  弘は友達だけど、友達の中では背も小さいし見た目も少し可愛らしい。性格は素直でも案外男らしいから言ったら怒られるだろうけど、最近すっかり生意気になった妹が可愛かった頃を思い出してついかまってしまう。  しかし、今回はちょっと失敗したかも。  クジで『キス』と出た時は驚いたものの弘相手だしいけるか、と「やろう」と言った。が、もしかしたら弘は本当に嫌だったかも。そうでもなければこんなに俺を避けるなんてしないよな!?と、こっそり弘の様子を伺う。  弘は皆から一歩離れて、武と何か話している。  俺も緊張してるし孤独だし、でも、話すなら俺と話してくれよ! と割り込む事はさすがに出来なかった。キス大事にしてたらごめん、好きな子いたらごめんて言いたいんだけど、そんな事言える雰囲気でもないんだよなぁ~…。困った。  ずっと話しかけるタイミングを狙っていたけど、結局話しかけられたのは電車に乗ってからだった。  もう長い話はできそうもなくて、頭半分は小さい弘に「緊張してる?」と聞くと、ただ黙って頷いた。やっぱり、キスは大事にしてるのかも。少し後悔して、でも悪い思い出にはしてやりたくなくて「任せとけ」と言う。  こっちだと武に呼ばれて歩き出すと、ひやっと冷たい何かが手に触れ、それが弘の指だと気付いた。こんなに手が冷たくなる程緊張させちゃってたのかと、胸がきゅっとなって、指先だけで手を繋いだ。それだけで弘の手が温かくなった気がして嬉しくなる。  電車の中、他の乗客から隠れるように立つと視界が弘だけになる。と言っても見えるのは頭だけで近すぎて弘が見上げてくれないと顔もまともに見えない。さっきまでは青白いような顔をしてたけど、今は赤く火照っている。近くで見下ろすと、長いまつげとその下のちょこんと可愛い鼻、それからやたらと紅く見える唇にドキンと心臓が鳴った。  あ、れ…、弘ってこんな顔してたっけ?   いつもの見慣れた顔のはずが別人のように見えて、でも確かに弘で…。混乱する。混乱するのが嫌で、指先だけ握っていた弘の手をしっかりと握り返すと、弘の耳が一男と赤くなって、少しこちらを見上げる。  うわ…、他のやつらに見せたくないな…。  電車の中なんかで、他の奴にもこんな弘を見せるのかと思うと腹が立って、繋いでいない方の手を着いて弘の顔を隠す。もう片方も隠したかったけれど、繋いだ手を離すのが惜しくて我慢する。  なんだかもう堪らなくなって「顔、上げて」と言ったけれど、聞こえなかったのか、目配せだけで「なに?」と聞き返される。今度は、少し背をかがめて弘の耳先で「手、繋いだまましたい。顔、あげて」と言う。  弘は言われるまま顔を上げると、ぎゅっと目をつぶる。  うっわ! 可愛い!!  何かがこみあげてくる気がする。さっきまで友達だったのに、何だこの可愛さは。何だかわからないけど弘の仕草が可愛くて、キスを待つ顔を眺める。  そうだった、キス、するんだった…。  思い出して、気合を入れると弘が身じろいだ。そんな感じはしなかったけどやっぱ嫌なのかな、と思うとどうしてもキスしたくなる。  いけっ…!   自分で気合を入れてキスしようとした途端、電車が揺れて唇がぶつかった。歯の所当たったかもと思ったら「痛…」と聞こえて慌てて少し顔を離した。 「ごめん…。痛かったよな?」  囁くと、弘に見つめられ堪らなくなって、思わずもう一度唇を寄せた。  あたたかくて柔らかい感触。  口の中のさっきぶつけた所から少し血の味がして、弘もかな、と思ったら口の中を舐めたくなった。けれどさすがにその勇気はなくて、そっと弘の紅い唇を唇で噛んで離す。  やっぱ可愛い…。  呆けて弘の眺めていると下を向いて顔を隠される。でもその仕草も何もかもが可愛く見える。それに引き換え俺は任せろとか言っといて… 「…俺、ほんとかっこつかねーな…」  呟くと、弘が頭をふってかっこ悪くないと伝えてくれる。 「痛かった? ごめんな…」  格好悪くて情けなくて、恥ずかしさを隠すみたいに弘の額にコツンと頭をぶつけると、鼻をすする音が聞こえて、泣いてるんだ、と気付いた。  もう一度ごめんという前に、弘から先に謝られる。そのまま繋いだ手を振り解かれそうになって、離すものか、と手に力を入れた。手を繋ぐのも嫌で泣く程嫌だったのかと思うと、涙が出そうになって必死にこらえる。  弘はそのまま俺の肩に額を寄せて、少しだけ震えている。  可哀想だけど、可愛くて、どうしても離したくない。ほんとは、抱きしめたい。  しばらくすると落ち着いたのか、空いている手で涙を拭って顔を上げる。 「京、鼻水ついちゃったかも…ごめんね?」  声は少し湿っているけど、いつもと同じ調子にほっとする。 「そんなの、いいよ」  見上げた弘と視線が合って思わず笑う。涙でまだ潤んでいる瞳も、紅潮したままの頬も耳も、やけに紅い唇も、鼻水の跡さえ可愛く見える。  俺、本当にどうしちゃったんだろう? これが流されるってやつ? なんでこんなに可愛いの、と途方に暮れる。  弘たちの降りる駅に着き、俺と川島を残した5人が電車から降りる。  もっと一緒に居たくて、でも勇気がなくてせめて今日のキスが嫌な思い出にならなければいいと、ずっと繋いだままでいた手を離す時にもう一度ぎゅっと握った。何か言いたかったけれど「ごめん。ありがとな」しか言えなかった。  ドアが閉まって発車すると「はぁ…」と知らずにため息が出た。格好悪さを隠したくて不良っぽい外見にしてるけど、本当にどこまでも格好悪い。「なあ」とドア前に並んで立った川島に話しかけられる。  「本当のところ、どうなの?」  川島はいつもつるんでいる程じゃないが小学校から知っている。弘程の女顔ではないけれど不細工じゃないし、身長は弘より少し高い位で俺よりは大分低い。  弘と同じように見上げられてもさっきみたいな高揚感は無くて、そうだよな…と確認する。 「どう、って…?」  質問の意味が解らずに聞き返すと、とぼけんなよと呆れられる。 「弘の事だよ。本当に、気付いてないの?」 「弘がどうかしたのかよ。気付いてないって何?」  何の事だかわからない質問にイラっとして返すと、眉をひそめて一瞬黙り「本当に解らないのか」とぼそっと返された。 「俺、全然意味わかんないんだけど…弘に何かあるの?」  気になって聞き返したが、もう「解らないならいい」と言ったまま答えてくれない。  何の事だよ、気持ち悪いな…ハッキリ言えよ。弘がどうかした? 隠し事でもあるのか? と、弘の事で俺だけ退け者になっているのにムカ付いた。  川島より、俺の方がよっぽど仲いいだろ?   さっきまで繋いでいた弘の手の感触を思い出す。女子程小さくないし柔らかくもないけど冷たくてあたたかい手は、不思議としっくりきてずっと握っていたいと思った。ついで、肩に乗せた頭の感触、涙を溜めてきらきらと光って見えた眼、寄り添った感触と、それから、柔らかい唇を思い出す。  うわー…しちゃったんだよな、キス。と、今のイラつきもすぐに忘れる。  悪ぶってみてはいるが本当にただのポーズだけで、実はキスの経験はおろか、自分から女子と手を繋いだ事すらない。一気に何段階も駆け上った経験のせいで、頭の中はすぐに弘でいっぱいになる。  弘が、あんなに可愛いなんて知らなかった。キスがこんなにドキドキしてもっとしたくなるものだなんて知らなかった。誰もいなかったら、もっとぎゅっと抱きしめて、めちゃくちゃにキスしたかった。  湧き上がってくる思いに、明日からどうすりゃいいんだと頭を抱えたが、直ぐに駅に着いて思考を中断される。  川島は他人事とばかりに「まぁ、頑張ってよ」と言って、笑って帰って行った。  一人になると、身体の中から何かが吹き出すようで、耐えられなくなって急ぐ必要もないのに思い切り走りたくなって走り出す。  すると、ポケットの中のスマホがメッセ―ジの着信を知らせた。弘からだ。  メッセージの内容は『またしてね』。  またしてね。  またしてね…?   何度も読み返して、やっとで意味が伝わる。  また、してね!!   今度こそ、本当に何かが身体の中で、心の中で暴れ出して、知らずに「うわーっ!」と叫んで走り出す。  またしてね、って、またしてねか!?   全力でひたすら走っていると、犬を連れた通りがかりのおじさんに「うるせえ!」と怒鳴られる。  怒鳴られたけど、知るか!   俺は息切れして走れなくなるまで、走り続けた。

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