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囲みモブ男子 茂
囲みモブ男子 茂
弘を何とかしてやりたくて考えた計画だけど、途中からやりすぎのような気がしていた。弘が京を好きな確信はあったけど、弘の意思を確認しなかったのは失敗だった。京の方は弘程はわかりやすくないけど弘を気に入ってるのは間違いないし、あの状態の弘を好んで側に置いて平気な顔をしているんだからまんざらでもないはずだ。
一年以上、京の事ばかり追いかける弘を見てきた。
見た目に反して芯は強いから多少荒療治でも大丈夫だろうと思ったし、もし失敗しても慰めてやれる。というのは建前で、どうにも乙女モードになってしまう弘が落ち着かなくて、付き合うか振られるかはっきりすればスッキリするような気がした。俺の中に弘を取られたみたいな嫉妬のような気持ちが全く無いわけじゃなくて、実のところそこもスッキリさせたい。
けれど見た事が無い程緊張した弘に、初めてまざまざと『弘は京が好き』なんだと実感して落ち着かない気分になった。電車に乗り込む時、それまで距離を保っていた京が弘に近づいて何かを言うと、弘の表情がふっと変わった。電車の中で手を繋ぐ2人にも気付いたけれど、心臓を掴まれるような気持ちにはらなかった。
やっぱり俺のは恋じゃないな。どちらかというと手を繋ぐ両親を目撃したような、家族の恋愛を見る居心地の悪さだったと確信する。
もしかして俺はこんな事確認したくて弘に無理させたのかな、と申し訳なくなる。
人気の少ない場所を確保し、みんなで弘たちに背を向けて隠すように囲む。あとは「せめて上手くいってくれ」と無責任に祈るだけだ。
とは言え…俺達みんな初心な中学生だった! 忘れてた!!
これから友達がここでキスをする。
って俺が作ったクジなんだけども、キスは他のヤツラなら「犬にかまれた」程度で笑い話にできるしって気持ちで入れたものだ。まさかそれをドンピシャで引くとは思わないだろう。本当は、手を繋ぐとか壁ドンくらいで京が意識してくれれば、あるいは弘が勇気出して告白できればって予定だった。
思惑は予定通りに進まない、たかだか15年程の人生だけど嫌っていう程知っているはずなのに大事な時程失敗する――。
あ~~~…、違う事考えたいのに、どうしても全意識が弘と京に集中してしまう。
何かを言う京の低い声が聞こえる。
キス、と考えてどうしても顔が火照ってしまう。弘の、少しぷっくりとした紅い唇。見ないように…と思っても、ここに来るまでの間に何度も盗み見てしまった。あれが…
仕方ないだろう。本当に、初心な中学生なんだよ…。こんな時にこんな事実感したくなかった…。
つい、後ろを覗きたくなる気持ちを押して無理やり車窓に視線を向けていると、本を読んでいたお姉さんと目が合う。と、そろっと視線をそらされた。
あれ? おれ、もしかして、勃ってます!? いやいや、ちょっとぐらいは上着に隠れて大丈夫なはず。と思いながらついもぞりと動いて確認する。落ち着け…落ち着け、俺。大丈夫だ、まだ完全じゃない、落ち着け…!!
動揺のあまり、つい振り向いて弘の様子を見てしまう。
うまくいったのか、ニコリと弘が俺に笑いかける。
…あの、唇が…って、考えちゃダメなんだよ…。ダメっ!!
横に立つ武を見ると、武も同じなのか複雑なおかしな位真面目な顔をして携帯を眺めている。そして全身全霊で後ろの気配を察しようとしているのがわかる。たぶん、みんな同じなんだろう。普通のふりして、気にしている。
今日は弘と一緒にこのまま帰るつもりだったけれど、弘が大丈夫そうなら少し落ち着いてから帰りたい。正直、思った以上に自分が動揺していて恋愛感情はないのに、弘と二人でいたら変な風に意識してしまいそうな気がする。
「な、今日どっかで遊んでいかね?」
隣の武を肘でつついて話しかける。
「いいけど、制服で?」
いや…、と言い淀む。今は帰り道で弘と二人きりになる勇気がないだけで、本当は遊びたいってわけでもない。
「じゃ、家に遊びに来ねぇ?」
「いいね、行くわ」
武が答えると、更にその横から「あ、俺も行って良い?」と武と壁ドン&顎クイをした山田も入って来た。
それには「えっ!?」っと武が驚く。
「なに? ダメなの?」
それショックなんだけど…と山田がしょげる。「いや…ダメじゃないけど…」と武の目が泳ぐ。
「じゃ、武と山田ね。あっちの2人にも聞いてみるか」
弘と二人きりにならないで済むことにホッとして、もうすぐ駅に着くなと車窓を眺める。と視界の端に先程のお姉さんがぱっと視線を逸らしたのが映る。
やっぱ、さっきちょっと元気になってたのバレてるんだろうか。武との会話で少し落ち着いたはずなんだけど。お願いします! もう見ないで…。
駅に着き、次の駅で降りる京と川島を残して電車を降りる。
塾があって来れない川島を残して計画に加担した4人が俺の家に来ることになった。弘は電車から降りる時に京に何か言われたみたいで、まだ呆けたようになっている。周りの音が聞こえていないような弘の背中を小突いて、帰る? と聞いた。
こくんと頷く。まだ乙女モード全開だ。
勝手にやりすぎたかと不安でいたけれど今日のところは悪い方向には向かっていないらしい。「あとは弘の頑張り次第」と心の中でエールを送る。
家まで10分程の道のりをだらだらと歩く。弘が一緒なのでみんな少しずつ気を使ってさっきまでの事には触れられず、何時もならうるさいと感じる事もある武のゲーム話に救われていた。
弘はみんなの後ろをスマホをさわりながら歩いている。京とやり取りでもしているのかと気になって、そっと近づいて覗く。
『僕こそごめんね』『ありがとう』打って、悩んで、消して…を繰り返してるみたいだ。
「京に送ってんの?」
声を掛けると、弘は飛び上がって驚きスマホを隠す。
「見るなよっ!」
「あいつ鈍いから直球じゃないと伝わらねーよ?」
気にせず続けると食いついてきた。
「ほんと? 鈍い、かな?」
「鈍いんじゃない。弘のこと、気付いてなかったんだから」
「嫌だから知らないふりしてたって可能性もあるじゃん…」
お前、何見てんの? と呆れた。弘にはどう見えてるか知らないけどさ…
「さっきだって、どっからどう見ても嫌がってなかっただろ。どっちかっていうとイチャイチャしてたようにしか見えないけど。多少は人目をはばかれ」
「…おっま…! 茂があんなゲームさせるからだろ!」
あ、そういやそうでした。「ごめん、ごめん」と笑って誤魔化す。でも、俺だって恥ずかしい思いしてんだよ…! とはさすがに言えない。
「ま、続けて? 邪魔してごめんて…」
「本当に、嫌がってなかったと思う?」
謝ると、弘は少し考えて、しおらしく確認してきた。直接見ていないとはいえ、あれだけイチャついておいて嫌なんてないと思うけど、当人達は不安なのか。これが恋ってものなのかな――。
「大丈夫。嫌がってなかった! むしろいい感じだったと思う」
断言してやると「そっか…」と呟いて、またメッセージを打つ。それから少し逡巡して、送ったようだ。
手元のスマホを覗くと「またしてね」。
今度は怒らず、どう? という風に見上げてくる。
弘にしては中々大胆で頑張ったじゃないか、と頭を小突いてやった。
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