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第1話 、 夜行バス……
( ーー まにあって 、良かったぁ ーー )
………雪が薄っすらと、降り積もっていく、湯の川温泉のバス停。
11時発の夜行バスが、後2分で到着という時間ぎりぎりのところで 、
ようやく停留所に着いた智樹(トモキ)は、ほっと安堵の顔を浮かべた…‥‥ 。
肌寒い風が、ほほにあたって、寒さが増し、体をブルッと震わせたが、
でも、今は寒さよりも、生きて来て、始めて
自由になれた開放感と、これからどうやって生きて行けばいいのかと
いう不安とに挟まれ、気分は高揚していた …… 。
……‥‥‥
…… 遠くの方に、バスのライトが、
雪の降りゆく中、ぼんやりと、白く浮かび上がり、
どんどん近づいてきて、智樹の目の前で静止する……
智樹は、バスのステップに脚をかけながら、その瞬間立ち止まり、
今、自分が来た道を振り返って、呟く…‥…
( ーー もう引返すことは出来ないんだ ーー ) 、
自分にいい聞かせながら…‥バスの 奥へと乗り込んで行く ……… 。
バスは停留所を離れ、この後、
函館駅や市内の何ヶ所かを周り、その後、6時間以上かけ、札幌へと、
真っ暗な、国道を進んで行く………
この真っ暗な道を、智樹は自分の、人生になぞらえて、
きっと 向こう側には、良いことがあると、信じようとしていた ………‥ 。
…………‥
………‥…
智樹の家は、母子家庭で、六人家族だった…‥ 。
姉が一人と兄が三人いたが、父親が全員違っており、
母が、その父親達の中の何人と、
正式な夫婦だったのか、更に、その子供達の中で、
私生児は誰だとか、本当のところは、母だけしか真相はしらず、
家族内で、お互い、猜疑心が強くなっていた ……… 。
智樹も段々と、人間嫌いが強まっていき、
特に、母親には、嫌悪感を強くいだき、同居していく気持ちには、
もう、なれなくなっていた …… 。
それで、 智樹は、札幌で部屋を借りるための、
お金は貯めようと決心し、幾つかのアルバイトをこなし、目標額に届いたのを機に、
高校の卒業まで、あとわずか、3ヶ月だというのにもかかわらず、
、今日の家出を決行したのだ ……… 。
……走りゆく高速バスが、
オレンジ色に点在する街路灯のその場所だけ、ぼーっと明るく照らし、
あとは、寂しげな暗い、街灯りの道を、進んで行く。
智樹は、17才の自分が、
どんな仕事に就けて、どこに、住むことが出来るのかと、いろいろ、
考えをめぐらしながら……窓外の景色を見詰め続けていた……
―――こんな中、浮かび上がった、一つの想い―――
( ーー 札幌に着いたらすぐに、姉ちゃんのとこへ行こう ーー )
智樹は、家族の中で、
唯一結婚している姉を、訪ねてみようと決心する……‥
―― 姉に、 新しく借りる部屋の保証人になってもらう事、
姉の旦那がホテルの調理師なので、なにか働き口を紹介して貰う事、
この2つを頼んでみようと………
この姉だけは、小さい時から、
智樹を可愛がってくれていたが、4年前に
ホテルのコックだった義兄と結婚し、今は、札幌の琴似(コトニ)に住んでいる……
( ーー この姉なら、歓迎もしてくれるだろうし、きっと助けにもなってくれるだろう ーー )
‥…‥そんな事を考えつつ、
更に、 ( 札幌はどんな街 ーー、どんな人達が住んでるのーー ?、
札幌のゲイの世界って、人口が多い分、派手で、凄いのかなぁ ーー? ) ………と。
…………
………札幌へのいろんな思いを馳せているうちに…‥…
いつしか、智樹は、バスの心地よい揺れに合せながら、うつらうつらと
眠りの中に身を投じていた ………
…………
…………
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