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第6話、智樹の告白…そして重則の想い…
ーー札幌の歓楽街、ススキノの午後7時過ぎ
ゴールデンウィーク前だというのに、日曜夕方の東急インホテルは、結構混んでいてーー
待ち合わせのレストラン喫茶から移動したメンバーは、
地下のスペインレストランで、宴会の真っ最中であるーー―
ーー智樹以外の4人は、皆、黒か、チャコールグレーのスーツを着ており、
どの人も、男性ファッション誌から抜け出てきたような趣で、
ひと目を引く程に、洒落ているーー
智樹だけは、膝小僧が露わになったブリーチアウトしたジーンズに、
黒·赤 2色のビッグサイズパーカーという出で立ちで、
一人だけ浮きまくっている―――
「 あのメンバーの中じゃ、気が引けちゃうよなぁーー 」
トイレに入った智樹は、そこの鏡の前で、一人ブツブツと呟く。
皆が座っているボックスのほうでは、重則が三咲に、苦笑いをしながら、
アドバイスをしている>>
「 見る方向を、間違えてるでしょう 〜!、
ちゃんと話し掛けてーー ! 」
( ーーこれじゃ、どちらが年上か分らないよなぁーー )
重則は、ヤレヤレと言ったかんじを醸し出しながら、
三咲の真正面に智樹が座るような席替えを、メンバーに頼んでいる――
「 ごめん>> 分かった〜>>ちゃんと話しするからーー 」
三咲は、他のメンバーがニヤニヤしながら、見ている中、
重則に謝罪しながらも、過去の想いに、気を巡らして行く>>
( ーー自分は、又、恋愛をしてもいいのだろうか 〜?、そんな事、
許されるのだろうかーー )
自問を重ねながら、2年近く前に自ら命を絶った、元恋人の
姿を想い出し、その彼を救う事が出来なかったという自責の念と、その人がもういないという悲しみの入り混じった、複雑な気持ちに陥っているーー
「 あッ、智樹君、席こっちねーー、俺の隣に座ってーー 」
ーー重則の声に三咲は、我に返りながら智樹の方へ視線を向けるーー
トイレから帰ってきた智樹に、一所懸命気を遣いながら、
彼の気分を盛りたてようと、重則が頑張りながら、三咲に合図を送りつつ、
ニコニコ顔のサービスを智樹に送る―――
三咲も、その意を介して、満面の笑みをたたえながら、智樹に、
話を仕向ける―――
「 今日は、来てくれてどうもねーー、重ちゃん、強引じゃなかった〜?
バイト先の、 お客だからって、無理する事はないからねーー 」
「 全然大丈夫ですーー、僕も来たかったから 〜 」
>> 智樹も、微笑みを返しながら、三咲の顔を見詰めるーー
「 智樹君、まだ、フリーって言ってたよね 〜、どんな人がいいの ーー? 」
重則が優しそうな瞳で、顔を智樹に向けながら、聞く。
「 う〜ん、やっぱり優しくて大人の人がいいです ーー 」
「じゃ、この中にはいるーー?、大人と言う事なら、
サキさんかなぁーー 」
「 あッ‼、はい、そッ‼、そうですね ーー 」
三咲は思わず、飲みかけのビールを、プッと噴いて智樹を見る。
「 アハハッ、無理して、気を遣わなくていいよーー
ほら、ここに誠(セイ)ちゃんや、遼ちゃんもいるし、でなきゃ他の誰かでもいいしさ>> 好きなタイプってあるーー ?」
「 いえッ、あのぅ、三咲さんがい·い·で·す・・・・ 」
ーー智樹は、恥ずかしさで色白の顔を真っ赤にしながらも、今、言わなかったらきっと後悔してしまう>>それなら言ってしまおうと>>
振られたって、少なくとも、年上のいい友達にはなってくれそうだしーー
ーー 三咲のほうは……照れると同時に、嬉しさも溢れたのだが>>
心の中は、天国にいるであろう、今は亡き元の恋人に……許しを乞うように語りかける>>新たな恋愛をしてもいいかなぁ~?、恋人を作ってもいいかなぁーーと………。
二人の様子を見ていた重則も、やっと、安堵の笑みを浮かべるーー
前から続くサキさんの悲しみを、少しでも癒す事が出来て、
智樹君には、真剣な恋をするのにふさわしい人を紹介するーー
その重大な使命 ( 重則の思い込みの面もあるのだが) を、果たした重則は、自分自身に満足感を覚え、且、二人には、絶対幸せになって欲しいーーと切に願う。
そして、自分達の会『 Ugly boar』は、
メンバーそれぞれが、自分のパートナーを連れて出席するような素敵な集まりにしたいとーー
その小さな夢を叶えるべく、努力して行こうと重則は、メンバーを見廻しながら心に秘かに誓いをたててゆく――ー
その重則の瞳には、三咲と智樹二人の、微笑ましい姿が映り、
その場の柔げな雰囲気は、もうすぐ初夏が訪れて、
この街の、一年で一番良い季節と重なり合う情景を、写し出す………。
さしづめ、二人はカトレアとスズランの花のようで>>
それを暗示するかのような、甘い香りと、爽やかでいて恥じらうような温もりを、あたり一面に撒き散らしている・・・・
――だが、この男同士の世界では、一時の幸福感や、一瞬の体の絶頂感は、
皆一様に、体験するのだが、長きに渡っての揺るぎない幸せを
掴めるのは、極一部の者だけだと重則は、感じている………
だからこそ、もろく壊れるガラス器のような、このゲイの世界の中で、
自分と関わりのある人達には、幸福になってもらいたいと、
そして、更には、男女の夫婦のようにお互いを労り、
慈しむ関係を、築いてもらいたいと願ってもいる―――。
――この重則の想いを、知ってか知らずか、三咲と智樹は、
お互い惹かれ合う気持ちのその先には、刹那的な感情を選ぶのか、
永劫的なものを望むのかは、当の本人たちも、まだ、掴みきれてなく>>
――きっといつか、これらの事に向き合うのだろうと、それぞれが、
漠然と何の気なしにその結論を、心の片隅に、
追いやっているのであった……………。
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