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第2話

「事件に巻き込まれた子……か。子どもとはいかに数奇な運命に巻き込まれながら生まれてくるものか。だが、安心しろ。あの子は実直に育っているよ」 「そうですか……。一安心ですね。では——」 「あの子を引き取らないのか」 「……っ」  鴬はスマホ越しに見ていた2人から、視線を上げて目を丸くする。正気の沙汰ではない桔平に、今すぐ割って入って説得したい、だが、人払いをさせていただけに、此処で見つかってしまうのは何よりもまずい事を知っていた。  言いようのない焦燥感に駆られて、スマホを持つ小さな手が震える。  この映像が証拠として使える日が来るかもしれない、その一心で震える手で撮り続ける。 「引き取れないです……。赤の他人を勝手になんて……」 (そうだよ、普通に考えてあり得ないでしょ) 「……じゃあ、こうしようじゃないか。お前さんの誠実さに免じて、定期的に仁作の情報を久我さんに渡すことにしよう」 「そんな事、してもらえるんですか……?」 「まぁ、それなりの見返りをもらうに決まってる。こちとらボランティアやれる程余裕はないんでね。こっちの信念を貫き通すため、日々齷齪(あくせく)してんだ。何より——警察との癒着はこちらとしてもありがたいしな」 「……そうなりますよね」 「その覚悟無しでウチの玄関跨いだとは言わせんぞ」 「いえ……その覚悟もしてきました」 「じゃあ、早速交渉と行こうじゃないか」  交渉の言葉に反応した鴬は、眉をひくつかせて見守る。 「ウチも他と同様極道一家だ。一本独鈷(いっぽんどっこ)でやっているとはいえ、やはり法に抵触するようなこともたまにはやってる」  常盤組は大きな組織ではなく、常盤をピラミッドの頂点としてその下に数個の弟分となる組があるだけで、他所の大きな組織と比べると見劣りする。  しかし、常盤組の真髄は「信念に基づく教育」であり、これが他所とは違う強みとなって周りを圧倒している。まさに一本独鈷の組織と言ってもいい。 「……ええ、そのようですね」 「……だが、お前さんハムと呼ばれる警察なら、私らが事を起こすまで監視し続けるのだろう? 他所の組のモンが捕まる時は決まって、賭場で闇取引きをした直後であったり、抗争なら発砲した直後であったりと、話が上がってる」 「そちら側の人に面と向かってハムと呼ばれたのは初めてですね」 「なぁに、私は揶揄して言ってるんじゃない。そのやり方なら私らもお前さんの情報提供に協力してやれるだろうって話だよ。こっちだってグレーなことは実際にやってるんだ、大きな事をしなければ目を瞑ってもらえる、と捉えてもいいということだもんな?」  急に高圧的な態度を示し出した桔平の策略を、鴬はまじまじと凝視する。 「流石ですね——分かりました」 「おっと、それだけと思うのか。うちの大事な息子の近況報告をしてやるってんだぞ? そんなに安いわけないだろう」 「……」 「こちらに被害が及びそうな事案が発生した場合、逐一こちらに連絡を寄越すこと。これは組を守るというより、仁作の身を守ることになると考えれば、そう難しい話ではないだろう」 「……はは、仮にも極道ってわけですか」 「そうだな。加えて、こちらからの情報開示は一切行わない。それにやりとりは全て書簡で行う」 「それを了承するだけのメリットは——」  ここで桔平が食い気味に「仁作は何にも替えがたい宝物だろう」という。 「なるほど、筒抜けですね……」

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