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第16話

「……俺は常盤桔平さんと待ち合わせているのですが」  毅然とした態度で美少年を見据えた。 「ええ、僕はその人の孫でーす。つまり、貴方の関係者とも言えますね?」  見た目の割にはハキハキとした物言いをするので、久我も状況把握しながらゆっくり答える。 「どうして、君が、此処に? さっきいったように、桔平さんと待ち合わせてるんだが」 「僕が呼んだんです」 「——桔平さんの名前を使ってか」 「はい!」 「それはなぜ」  美少年は知らないかもしれないが、久我は仮にも公安警察だ。ふつふつとした怒りが湧いてくるのを感じる。 「爺さんには知られる前に、と思ったからですよ。とくに、貴方は仁作をとても気にかけているようだから……」  猫撫で声から一変して、的を得たように自信あり気でこちらを見る少年の目は、ニヒルに笑っている。  堂々とこちらへ歩み寄って、畳の上に胡坐をかく。どうやら美少年と思っていた彼は、童顔なだけで、経験のあるベテランの極道者らしい。  「僕は別にイタズラでこんなところまで呼び出しはしないよ。僕のお小遣いの大半をはたいて此処に来たんだからね」という美少年は口を膨らませる。 「うちはキリキリで回してるからか、僕にくれるお小遣いなんて、そこらの一般人と大して変わらないか、それより少ないんだよ」 「……っ! ——ハハッ、君、見た目通りの年齢なんだね」 「え? 僕は15歳で高校生になったばかりですよ」 「高校生……15歳ね。うん、流石桔平さんのお孫さんだね」 「……あの。用件を端的に言いますよ」 「あ、ああ」 「だって、公安警察の親父さんなんだからさ。少しは頼りになると思って、爺さんの名前使って接触しちゃった」 「……君、名前は?」  猜疑心を丸出しに、眼光を鋭くさせて胡座をかいた少年を注視し続ける。スマホを弄りながら人の話を聞いている。教育に力を入れていると巷では噂されているらしいが、身内には甘いようだ。会話がチグハグだ。 「僕は常盤鴬」 「なんで俺が警察だって? それも公安って」 「んー? そりゃ、爺さんとの癒着の件を知ってるから?」  スマホをこちらに突き出して、そこに映し出されている映像を垂れ流す。  「……久我とか言ったな。お前さん、此処が何処だか知った上で接触してきたんだろうな?」という桔平と、「ええ。それはもちろん——公安警察の者ですから」と答える自分自身が緊張の混じった声でしっかりと入っていた。  鴬曰く「当時8歳で、興味本位で撮っちゃったんだよね。ま、あとで使えるだろうとも考えてたけど」と言ってのけるが、これこそイタズラの範疇を超えている。  続けて、「敷居を跨ぐ人間が見知った顔じゃない上に、カタギだなんて、僕にとってはスキャンダルでしかなかったの。兄弟の誰も知らないなんて、常盤組のエントランスを潜ってくるなんて、実はすごい快挙なんだよ? 気になるでしょ、そんなん」という。 「僕が言いたいのは、脅しなんかじゃなくて、幸せを履き違えてない? って言いたいの。この映像では、ご飯がたくさん食べれるうちにいることが幸せだなんて言うけどさ。よく考えても見てよ。確かに、生きてさえいれば嬉しいことも悲しいことも全て人生だけど。シノギとカタギじゃ、歩む人生のレールが違いすぎる。爺さんは無事に帰ってきてくれる仁作を何よりの親孝行って言ってたよ。だって、シノギだから。シノギはカタギと比べるとどうしても……ね」  久我はスマホと鴬から視線を逸らした。  

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