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第15話

 「——うん、その性質使って、ちゃんと調べるよ。本部からも本腰を入れろって要請があるからね」相手に届かない苦笑いを浮かべて久我はいう。 「やっぱり、拡大していきそうな組なんですね」 「本命は獅子王だけどね。あそこは本当に組織が大きすぎて、大麻や覚醒剤の検挙率が圧倒的なのに獅子王組が廃れた事がない。まさに蜥蜴の尻尾取りだ。弱肉強食の世界は下の人間が苦労するな」  同業者に苦言を呈したところで、常盤との約束は他の極道と不干渉で、これはただの愚痴だった。 「それは資本主義とさほど変わらないですよ。そんな事はいいんです。遊馬組の危険性を十分に理解したいので、詳細が分かり次第情報ください。うちのモンを使ってもいいんですが、変に不安を煽る必要はないかなとは思うんですよね。ちょっとしたイザコザくらいなら、うちの人間はまず負けませんから」 「人使いが荒いな。だが、高校生とは思えない賢さだ」 「守りたいんですよ。貴方と同じで、仁作を」  ここで鴬との会話は終了する。  茶封筒の山の中から、2年前の書簡を取り出す。一つだけ常盤仁作の動向が一切書かれていない書類が一枚。後々知った事だが、この書簡こそ、鴬が桔平の目を盗んで久我と接触した何よりの証拠である。  「もう2年も前になるか……」久我は1人ごちる。  常盤組のテリトリーに踏み込んだ日から一度も対面での報告はない。だが、仁作の報告をするための書簡には、「料亭にて」という言葉が印字されていたのは、書類でのやりとりから既に七年が経過した日のことである。常盤が信条を突き通す組で、仁作が拾われたところが此処で良かったと一時の安堵を覚えたが、突如として向こうからのやり方を変えられ、不信感を抱いたのは言うまでもない。  だが、行かない手はなかった。部下にプライベートだと嘘をついて、指定された料亭へ向かう。  スーツに身を包んで、常盤組の会長を待つ。全てを察してくれた上で、敷居を跨がせ、仁作の近況報告をしてくれる温情な方が、どうして書簡でのやりとりをすぐに逸脱して密会を選んだのか。考えうる全てを検討してみて、紙に残される危険性を危惧してのことかもしれない事で落ち着いた。  ——信頼のおける極道者だと、敷居を跨がせて「子は何にも替え難い宝」だと断言した桔平を見て確信したのだ。  指定された場所は密会で使われ、公安もよく張り込みで目にする処だった。女将に通され先に桔平を待つ。  暫時、静寂の後、「お待たせしましたー!」とやたら元気のいい一人の小さい男が姿を現した。  「ん? 君、会う人を間違えてないかな?」と薄笑いを美少年に向ける。 (スーツを着ていてもいかにも中学生じゃないか! 間違って此処に来た……はないだろうな。こういうところは基本会員制が多い。紹介があって入れたとしても、保護者くらいいるはず)  久我は真っ先に、目の前の童顔の美少年を保護対象として、警察のアンテナを立てる。此処は料亭でもあるが、情報交換や提供の場所でもある。下手に動けば、狙われる命だ。保護者が何者であろうと、目の前に子供が狙われる命があってはいけない。  「いいえ、間違えていませんよ? 久我旭さん!」少年は会釈程度に頭を下げる。はにかみ具合も人たらしの域だ。だが、久我は曲がりなりにも公安警察だ。  瞬時に臨界態勢に入って、少年を敵視した。鋭利な視線で容赦無く警戒を露わにする。

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