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第18話「生誕祭」——常盤鴬——

 久我から、「遊馬組が常盤組のシマを徘徊している」というありがたい情報提供を受け、鴬は仁作に書類の山を半ば強引に押し付けて、事務所に籠らせた。  そのうちに、部下を連れてシマのホステス街へと鴬を乗せ車を向かわせる。  ホステス街に着けば、鴬は一呼吸置く。 (ふぅ……。イメージはぶりっ子JK——よし)  艶のある髪を耳にかけて、女性らしさを醸し出してから通りを歩き出した。通りすがる客もホステスも男女問わず、鴬に声をかけてくる。   人のつながりで飯を食う彼らにとって、鴬に声をかけるのは、もはや職業病の一種ともいえる。しかし、それに気付いていても、鴬は勘違いするだけのルックスと地位を持っていることも確かであった。 (よくもまぁ、たかってくるなぁ。若いって楽チンだー) 「鴬ちゃん!! 今日は1人で見回りしてくれるの?」 (後ろに僕の部下いるんだけどなー)  「運転してくれる人と一緒だけど、ついて来てもらったの! 僕の我が儘だし、何より、僕、運転できないから……」と八の字眉を作ってやる。そうすれば、「やーん、できるなら私らが送ってやりたいくらいだわ!!」とお世辞なのか本意なのか分からない返事がくる。  彼女らはそれが鴬へのデフォルトだ。  それよりも、鴬の一歩後ろを頑として守る部下が優秀すぎる。変な口出しはしないどころか、ホステス街へ向かう道中では、「若に心を鬼にして、事務所に籠らせたんっスよね。流石です。会長は若のデスクワークが苦手なことを黙認を貫いているんで、誰かが厳しくしなきゃならないのを、かって出て……。その絆こそ、常盤名物となる日が来るとイイっす」だというのだ。  物言いこそフランクだが、忠犬ハチ公と同然だ。  そんな部下を背に、「最近此処らで、柄の悪いチンピラ共がうろついているって聞いて巡回してるんだけどさ。いなかった? そんな常識のないチンピラ共」と目的の聞き込みを開始する。 「んー、私は基本的に週1くらいでしか此処に来ないから分かんないや。アンタどう?」 「あ、私は見たことある!!」  一人の嬢が思い出したらしい。過去に思考を巡らせながら、ゆっくり辿るように話し出す。 「私も直接見た事はないんだけど、勤務前の更衣室で、職場の仲間が最近柄の悪い連中に声をかけられるようになったて言ってたんだよねぇ」 「え?! 被害は?!」 「それがぇ……。乱暴されたり、カツアゲに遭ったりはしてないみたい。ただ——」 「ただ?」 「事情聴取みたく、仁作さんの事を聞いてくるってさ」 「——仁作が?」  思わず眉尻がつり上がってしまう。 「年齢から役職、好きな食べ物まで、もう何から何まで!」  鴬を含めた嬢たちも同じように表情筋をひくつかせてドン引いている。 「何々……それ。仁作さんを狙ってんの? そのチンピラ。私ちょっと引いてるんだけど」 「うちもー……。本当、どういう意味で?」 「マジで。常盤の人間って知ってて聞いてきたんだろうし……やっぱり……そういう狙いで——」  「……流石にそれはないんじゃないかなぁ」と鴬は誰よりも表情筋を硬直させて、なんとか平静を維持させた。 「だって、あの仁作だよ? 他所では仏頂面が常の」  そういうと、彼女らは同意の声を喉元から出した。  それからあちこちで聴取した情報は、どれも仁作目当てだという事が発覚する。くわえて、被害はゼロ。これは嵐の前の静けさとしか思えないまでのイレギュラーだ。  一通り聞き込みを終えて、仁作のいる籠もとい、事務所へと車を走らせた。  途中でスマホが鳴る。相手は久我だ。

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