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第30話
2人は鴬を気遣って口を謹み出した。「鴬さんがいるのにそんなモン、大切に持ってくわけないですから。もしソレが俺らの思うモンだったとして、きっと鴬さんへの配慮で見せないようにしてるだけですよ。だって、若ですよ?」とひとりは冷静沈着なタイプらしい。
鴬が平静のままでいられたのは、言うまでもなくこの部下の助言が大きい。一方で、もうひとりは鴬と仁作の間柄に気付いていなかったようで、驚嘆の声を隠すことができていない。口元を抑えるのは自分ではない部下だ。
「爺さんには内緒だよ? 仁作が隠しときたいって言ってたからさ」
「な、なるほど……でも、自宅に帰ったとなると、もしかしたら、台紙のヤツあるかもっスね……」
「——探してみようかな」
すると、丁度事務所に戻ってきた部下が鴬を目にするなり頭を垂れる。
「鴬さん、今走れば若の車に間に合うかもっスよ!」
「ん? 家に帰ったんじゃなかったの?」
「え? さっきそこにいましたよ? 手ぶらだったけど」
外から入ってきた部下がドアに視線を送る。どうやら本当に部下の言う「そこ」にいたらしい。
——にも関わらず、鴬が帰宅していることを知って尚、外へ車を出そうとしているのだ。話の全容が聞こえていただろう故に、鴬の快晴で素晴らしい天候が一気に暗転する。
「……今走らなくても、どうせ外回りでしょ。ちょっと、車を出して」
「——では、俺が出します。俺も大体予想はついてますので」と冷静沈着なタイプの部下が、キーを手に事務所を先に出る。それから、鴬が通るまでの道を確保してくれた。
「行き先があそこなら、出遅れても大丈夫か……僕、一旦自宅に戻ってもいいかな。どうせ着替えないといけないし」
「……了解です。——もし、目当てのモノが見つかった場合はどうされますか?」
鴬は一息ついていった。「どちらにせよ、仁作を捕まえる」。
「では、車を表に出しときます」
汲み取って行動をできる優秀な部下を横目に、鴬は一旦上へとエレベーターの箱を上げた。
自宅のカードキーをかざして帰宅する。学校指定のローファーを脱ぎ捨て、真っ先に仁作の寝室へ足を運ぶ。まずは、昨日の艶事に思いを馳せて、気持ちを整える。すぅ、と深く鼻から吸い込んで仁作の滞在時間を把握する。推定5分だ。
それから、仁作の麻薬的な匂いに、興奮が下半身一点に集中し出すがそれには目を瞑った。
そして、迷いもなくベッドの隣のキャビネットに目を付け、上から順番に引き出しを開けていった。
「……白い台紙、みっけ」
見合い写真か七五三のものだ。しかし、この答えは十中八九、前者だ。答え合わせする必要もない程に飾り気のない台紙は大人向けの装いで、鴬の平静は徐々に瓦解していく。
おそらく、この場にあの部下が居合わせてくれていれば、多少の遅延は望めたかもしれない。
(何で、自分の部屋なんかに隠した……? 完全にこの話を受けようとしていない?)
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