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第29話「突破者」——常盤鴬——

 鴬は天から地に叩き落とされた気分で部下の車内で電話をかける。「もしもし、お疲れ様です、僕です」。 「どうした? 遊馬組なら今のところ変な動きは見られないようだけど」  相手はもちろん久我だ。優しい音が耳を包んで、荒んだ精神を一時の安寧を与えてくれる。 「いえ、もうすぐ動きがあるかも。いや、もう動いた可能性があります。察してください」 「—–なるほど、分かった」 「門前払いかと思ってたのですが、僕の見当違いでした。その思惑も含めて、お願いします」 「脅威レベルを引き上げるよう本部にも連絡しとくから、時間はかかるかもしれない」 「それはいいんですが、必ず何かくださいね」  たったこれだけの連絡事項で通話は終了する。見慣れた景観も相まって、組んだ足を不必要に組み直す。  「鴬さんはやっぱり他の高校生(がき)とは違いますねぇ。流石、会長のお孫さんっス!」部下が運転しながら、後部座席をルームミラーで確認して尊敬の眼差しを向けてくる。声色がまさにそれとしかとれない調子だ。  部下のゴマスリに相槌で躱して「行動パターンまで脳筋スタイルなのは分かりやすくていいけど、こういう時こそGPSがあれば楽なのに……」と呟く。  今朝の登校は自慢の彼氏の運転による優雅な朝であった。腰の疼きさえ耽美な痛みとなって鼓動が高鳴る。  そのせいもあってか、学校で話しかけられる全てに愛想を振りまいていた自分が急にバカらしくなった今日、「そんなに僕に群がらないでもらえる? いい加減だりぃわ」といつも寄ってたかる蝿を一蹴してみた。無論、固まる周り。それでも気が晴れる鴬。皮肉にも毒を吐く自分が自分らしいと再確認させられた。  そんな浮足だった1日の終わりに事務所へ顔を出し見てると、愛しの仁作がいない。外回りに行っているのだろうと安易に予想して、部下にホステス街へ車を出すよう声をかけた。  「あ、若ならついさっき自宅へ帰られたと思いますよ」と行動パターンから逸れた返答がくる。 「家帰ったの……今日は早目に上がれたんだね」 「そうなんスよ! 会長からもプレゼントを貰えるとかで、早々に仕事を終わらせて——」  浮き足立っていたのは、仁作も同じだったらしい。だがそれよりも、桔平からの伝言を今の今まで伝え忘れていた。思わず「あ、そうだった」という。 「会長から何もらったのか聞いたんスけど、結局わからずじまいで……すげぇ気になるんスよねー」 「確かに。僕も気になるかも」  後ろから別の部下が、話に間に入って「あれがプレゼントなのかは分からないんですが、白い台紙を小脇に抱えて、ついさっき帰って行きましたよ」ぴくんと心臓が跳ねることを口にした。 「白い台紙を貰って何になるって言うんだろ——あ」 「おい馬鹿、そんな愚問を口にするな!」

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