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第28話

 同時刻、学校から帰宅した鴬は真っ先に事務所に顔を出した。  目的はもちろん仁作。ブレスレットを確認して安心するためだけだったが、最奥部のオフィスにノックして入室しても無人だった。  部下に聞けば、今日の仁作はいつにも増してデスクワークを熱心に取り組んでいたらしく、会長に呼ばれてからは暫くして上がったと聞いた。  丁度仁作は事務所の入り口でその話を耳にし、そそくさとドアを閉めて付近にいなかったことにする。気配を消すことは得意分野ではないが、嫌な汗を背中に伝わせながらも必死で息を殺す。 (ダメだ……! 今顔を合わせると俺がボロが出そうだ。ここは一旦退避だな)  ガラス越しに部下が仁作の存在に気づいたので、ソイツひとりを呼んでホステス街へ車を走らせた。雲隠れの如く、鴬の目を盗んで逃げるようにして事務所から遠かった仁作に、良心が痛まない訳がなかった。  車内からの移りゆく景色を眺めても、漠然とした視覚刺激でしかなく、景観の感動もクソもない。  つい、腕組みから指先の貧乏ゆすりが不規則なリズムで刻んでいく。  行きつけのキャバクラで降りると、その先で見逃すには無理がある、いかにもなチンピラたちが女性に絡んでいるのが見えた。  正直、気を紛らわすのに丁度いいと思ってしまった。  徒歩で近づいて見れば、何やら仁作の思惑と逆転しているらしい。女性が威勢よくチンピラたちに気丈に吠えている。  最近はめっきりとタマ張るシーンが減ったので、一応の肩慣らしはしておく。  それから、後ろ姿だけでも漢前の女性を追い抜いて、目の前のチンピラと対峙した。  清々しく明明としたガンを飛ばしてくれるチンピラ共に、お情けは必要ないようだ。多少の話さえ聞くつもりがないとばかりに、威嚇しては「あぁん?」と下品な音までついてくる。

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