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第27話

「婚活中の女性にですか?! 俺はまだ、結婚なんて、考えたことないですし——」  「それに、婚活中っていっても、アングラ的には……」と言葉を濁す。仁作は婚活中の女のことを上手く躱したいのに、アンダーグラウンドが悪いという理由では、拾ってくれた桔平に悪い気がしてこれ以上の言葉は出てこなかった。 「もちろん、同業者さ」 「あ、そういうことだったんですね。ちなみに、組の名は?」 「遊馬組っていうらしい。私も焼きが回ったもんだ、全然記憶にない上に最近勢いのある組だとは把握しきれていなかった」  「そんな! じゃあ、遊馬組が何か不条理な交渉でも——」咄嗟に桔平の弱みにつけ込む様が想起されて、仁作の形相が険しいものになっていく。弱みなどないと言い切れるなら、どれほど良かったか。  「放浪者」や「浮浪者」、「うつけ者」まで拾い集めた桔平に、変な噂を持ちかけられ信用問題に託けるようなことがあれば、仁作をはじめとする「我々」は「弱み」となってしまう。  写る女性を睨め付けて、敵視する仁作に「ハハッ、違う違う! この女性が単純に大学卒業を機に結婚をしたいらしい。結婚願望が強いからこそ、こうして台紙まで用意して、是非を仁作と近づきたいんだろう。お前さんが目当てらしいぞ」と仁作の肩に手を置いた。 「は……俺、ですか」 「そうだよ。向こうさん側から、是非うちの娘を貰ってくれって嘆願書まがいの手紙まで寄越してきたんだ。この女性はお前にぞっこん、てわけだ」 「面識ないんですけど……」 「——まぁ、そんなことはないだろうけどな」 「え。本当に俺、知らないんですよ、この人。名前も分からないし……」 「名前は遊馬天音さんだ」 「やっぱり身に覚えがないですね」 「まぁそう言ってやるな。2人きりで会ってこいってんじゃない。まずは合コン形式でもって話らしいから。私からすれば、天音さんに限らず、異性と交流して欲しいんだよ。天音さんの台紙はその話だったから受け取ったまでだ。気負いする必要はない」  桔平は続けて「異性との交流が無意味だと思わないようにな。ハニートラップは実在するんだからな。免疫はつけておいて損はない」といった。  敵視していた写真の女は一家を巻き込んでまで自分を欲しがっているらしいが、大した情が湧く訳でもない。  仁作はもう既に喉から欲しかったものを手に入れてしまっているのだ。桔平にもいつか言わなければならないが、まだその決心がつかず、なあなあになりつつある。  そのため、仁作はどうしても「……ありがとうございます」というしかない。 「たまにはハメを外して楽しんできなさい。まだ若いんだから」 「……っス」  桔平の言うように、幸か不幸か今日この場で渡されて良かったと心から思う自分に辟易とした。鴬には嘘を許さず責め立てるくせに、自分がその場に立つと、鴬を擁護するために隠そうとしている。まさしく偽善者だった。  事務所の仁作特等席に戻り、どっかりと座り込む。真っ白な台紙は卓上に乱雑に置いて、再度開くことはなかった。 (コレ、隠さなきゃだよなー。んでもなぁー、鴬に白状してもなぁー、絶対拗れるだろうしなー……。どこに隠す——あ、灯台下暗しってヤツだな)  仕事終わりに台紙を事務所から持ち出して、帰宅したその足で自室のキャビネット上から3段目に直した。

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