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第26話
それから事務所に戻ると、会長の桔平が顔を出していた。すぐさま最敬礼で桔平に挨拶する。
「昨日は誕生日会だったらしいな」
「え、あ、はい! 鴬にしてもらいまして」
「ほう……ん、それがプレゼントだったのか」
桔平の視線の先には、仁作の強調的な骨格の腕に提げているブレスレット。「それ、よく見せてくれ」と手を差し出してきて、外すことを促された。
それに逆らわずに金具を外して、桔平の手に乗せる。
「……なるほど、本当に腕輪というか手錠のようだな、これは」
「結構いかついですよね」
「——お前さんの腕には似合ってるから、アイツも選びやすかったんだろう」
ブレスレットを隈なく凝視する桔平は閑話休題に「それはおいおいとして、昨日の誕生日会は盛り上がったらしいな?」と仁作に視線を戻した。
「え、ええ」
(色んな意味で盛り上がってしまったけど)
頭を掻き回したい衝動に駆られる。
「それで、楽しくて寝ちまったのか。鴬にそのパーティーが終わり次第書斎に召集をかけていたんだが」
まさに寝耳に水だった。仁作が慌てて謝罪の言葉を述べると、「……知らなかったのなら別にいい。急ぎの話ではなかったからな。——むしろ、このタイミングが良かったのかもしれん」と桔平は表情を緩めた。
「私からもプレゼント用意してたんだよ。書斎にそれがあるから、手が空いた時に来なさい」
桔平はそう言って事務所を後にした。まだまだ現役の桔平の背中を見届けて、事務所の上座であるオフィスの最奥部の部屋に戻る。社長椅子のような深い背もたれ付きの椅子に腰かけて、外したブレスレットを付け直しながら会長からの「プレゼント」の言葉を反芻する。
「親父」ではなく「父親」同然の眼差しを向け続けてきた仁作にとっては、幾つになっても自慢の桔平であった。
苦手なデスクワークでさえ、今日はやる気に漲っている。それは、桔平だけのおかげではないと差し込む光の反射したブレスレットが主張する。
(っとに、常盤家にどれだけ恩を返しても返したりねぇな。一家揃って義理人情の塊だ——いや、鴬は微妙だが、優しいことには変わりねぇか)
部下もあっと驚く集中力を見せた仁作は、早々と仕事を切り上げて書斎へ向かった。
「おお、来たか。そこ座れ」と促した桔平は書斎の本棚から一冊の冊子を取り出す。
「私からのプレゼントだ」
真っ白な台紙でそれこそ、フォトブックなのだろうということは見て取れた。
(もしかして、鴬の七五三の写真か?)
「開けてみていいですか」
頷いた桔平を確認してからゆっくりと開いてみる。そこに映るのは写るのは可愛い幼き頃の鴬ではなく、一張羅を着込んだ1人の見知らぬ女性だった。煌びやかな着物に身を包み、清純派と見て取れる柔和な笑みを浮かべている。
しばらく見つめても仁作に心当たりがなく、桔平に思わず聞いてしまう。
「この人は、絶賛婚活中の女性だ。一度会ってやるだけでもいいから、会ってやってくれ」
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