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第1話
月に1回か2回。
母国を越え、世界的にも地位を確立していっている若き画家・アーティーこと、アーサー・ベルは学芸員の夏迫惇(なつさこあつし)と会っていた。
「アーティー君は元気?」
会うと言っても、PCのディスプレイを隔てたリモートの逢瀬で、アーサーの目の前には若い親子ほどに年の離れたおじさん学芸員(夏迫が自称しているだけ)が笑っている。
「うん。元気……かな? まだ凄い暑いけどね。あとぅしは?」
「うん。暑いけど、何とかって感じ。また年、とっちゃった。あ、プレゼント、届いたよ」
恋人でも、恋人でもなくても、当たり障りのない安否確認や天候の話、誕生日プレゼントの話などの会話が続く。
ちなみに、夏迫の誕生日は8月24日で、NYのアーサーから日本の夏迫の元へ何箱ものプレゼントが送られてきた。
「ジャケットだけでも驚いたのに、スーツ一式に、ケーキやご馳走、絵も何枚も届くし、まるで王様か貴族にでもなったみたいだったよ」
そして、そのどれもに夏迫の誕生を祝うメッセージや夏迫のこれからの幸せを願うメッセージが添えられていた。
父方母方の祖父母とも縁遠く育ち、父も母も夏迫が30になった時に離婚し、疎遠になった夏迫にとっては唯一のプレゼントだった。
「ありがとう。もう42で良い年したおっさんなのに凄い嬉しかった。あ、アーティー君の誕生日ももうすぐだろ」
夏迫の誕生日からちょうど1ヶ月後。
9月24日がアーサーの誕生日で、21歳を迎える予定だ。
「欲しいもの、言ってよ。21歳だし、生まれ年の良いワインとかはどうかな? 相変わらず、俺は稼ぎ、あんま良くないけど、頑張って用意するから」
夏迫はアーサーと出会った博物館でまだ働いていて、相変わらず、ギリギリの生活だ。ただ、夏迫は非常に慎ましやかな生活をしていて、殆ど浪費することがない。かなり有り得ないことだが、この先、アーサーの生家であるベル財団が破綻して、アーサーが画家として売れなくなっても、すぐにすぐアーサーが路頭に迷わないくらいには夏迫は貯えていた。
「じゃあ……」
何でも言ってご覧、と言わんばかりに微笑む夏迫に、アーサーは呟く。
だが、その時、画面が少し動きが鈍くなる。
遠くにいても、広い画面で顔を見ながら話せるのはとても良いのだが、音声や映像が飛び飛びになることもあり、今夜はこれ以上、顔を見て話すのは難しそうだった。
「ごめん、状態、良くないみたいだね。プレゼント、ありがとう。実は今、欲しいものはあまり思いつかなくて」
アーサーはいつPCが切れてしまうか、気にしつつ、夏迫に何とか伝わるように話すと、「何か考えおくね」と言う。
そう言うと、夏迫もそれ以上は何も言わず、話を切り上げるように挨拶した。
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