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第2話(R15)
「じゃあね」
というアーサーの声は夏迫へ聞こえただろうか。
アーサーのPCのディスプレイには夏迫が消え、真っ黒な画面が映る。
アーサーは気の早い友人で、日本育ちのクリスから持ったシャンパンに手をつけようとするが、真面目でルールや決まりを破らない夏迫の顔が浮かぶ。
夏迫の住む国では20歳で成人して、飲酒も可能だが、アーサーの住む国では18歳で成人するも、飲酒ができるのは21歳からなのだ。
「あとぅしと出会った時には僕は大人だった。まぁ、18歳だったし、99歳でもあった訳だし」
ひょんなことからアーサーは生きていれば99歳は越える祖父の振りをして、夏迫と接していた。
「距離があるのも寂しかったけど、今は距離がない筈なのに寂しい」
まるで、息子か孫のような夏迫の接し方にアーサーは暖かさを感じつつも、それがひどく寂しかった。
「キスして、ハグして、セックスするだけが恋人じゃないっていうのは分かってるし、あとぅしが望まないなら無理にやろうなんて思わないけど……」
アーサーはシャンパンの代わりにコーラを取り出すと、クーラーが効いていて、特に暑いと言う訳でもないのに、一気に飲み干した。
実は、2年前の夏迫の誕生日に告白して、恋人になったアーサーと夏迫は1年前のアーサーの誕生日にも会っていた。
リモートではなく、アーサーと夏迫が初めて出会った日本のA市。
夏迫の務める博物館の近くにある2人にとっては、すっかり馴染みの店になったホテルの最上階にある鉄板焼き屋に行き、その足で、アーサーの泊まる部屋へ向かう。
『今夜はあとぅしを帰らせたくないな』
アーサーは夏迫の首に腕を回すと、1人で寝るには広すぎるベッドへ夏迫を優しく倒す。夏迫のシャツを乱し、舌先を夏迫の口内へ入れようとする。
『いや、帰るよ。……明日も仕事があってさ』
夏迫は戸惑ったように笑うと、それだけ言って退け、乱れたシャツを直す。
本当にやんわりとした拒否。いや、やんわりとしているが、拒絶に近いかも知れない。
だが、アーサーにとってはどんな激しい拒絶よりも傷ついた。
「あとぅしがくれるならどんなものでも嬉しいけど、僕は欲しいのは……」
アーサーとしても、絵筆を持ち、作品を描くのは人生そのものだし、生きる為には食べ物や衣服、住む場所だっている。夏迫さえいれば他には何も要らないなんて言うつもりもないが、夏迫以上に欲しいものはなかった。
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