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第3話

 事実は小説よりも奇なり。  と、日本生まれ、日本育ちの、ついでにオタクのクリス堂本(どうもと)はアーサーによく言っていた。 「へぇ、それで、そのさやちゃん? だっけ? 彼女は元の世界に帰れるの?」  アーサーは大して興味がある訳でもなく、クリスの持っているコミックスの表紙を眺めていた。ちなみに、主人公は鈴野紗夜(すずのさや)という銀色の髪に、灰色の目をしたミディアムショートの美少女なのだが、髪の色を金髪にして、目元を少し小さくすると、アーサーに似ているのだと当時、初対面だったクリスは息を荒くしていた。 「さやさやは戻らないよ。戻りたいけど、ピエスドールの義賊のサヤだから」  所謂、異世界に飛ばされたという設定の物語で、ひと昔はいかに異世界から元の世界に戻れるかを描かれていたらしいが、今は何かの原因で死んで、死んだと思ったら異世界に飛ばされたり、転生している。  そして、いかに異世界で馴染んで、そこで生きていくかを描いているものが主流らしい。 「って、まさか、自分自身が異世界? に飛ばされるなんて思ってなかったけど」  そこは見知った自分の部屋でもなく、沢山の暖色の提灯や行燈に照らされた階段と行き止まりが多い町だった。

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