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第27話
「うぅ……」
アーサーは再び、目が醒めると、そこは剤の庵ではなく、讃の町でもなかった。
NYにある見慣れた自身のアトリエ。
アーサーの目の前には夏迫や両親、他の州や国で仲良くなった画家仲間とリモートで話し合う時に使うパソコンがある。アーサーはパソコンの電源をつけると、現在の日時を確認した。
「7th, September? 6:08? 確かに讃の町で、3日4日は過ごしたのに」
9月7日の6時8分は所謂、アーサーが讃へ飛ばされる前に夏迫とリモートで会っていたが、その時間から8時間程しか経っていないことを意味していた。
「あとぅしは帰れたのかな?」
アーサーは不安になり、夏迫に連絡をとる為、スマートフォンを探す。
本当はリモートで夏迫の顔を見て、確認したいが、すぐに夏迫が応答できるとは限らない。
まだ月曜中で、博物館は休館日と定めている日であり、時間的にも日本は20時を過ぎたばかりだが、食事中や入浴中かも知れない。
次の展示の為に勉強をしていたり、明日からの業務に向けて、休んでいる最中かも知れない。
アーサーが夏迫に電話すると、夏迫はすぐに電話に出た。
「アーティー君?」
「あとぅし……」
良かった、無事に帰れたんだとアーサーは言いそうになるが、よく考えれば、あの讃での4夜3日はあまりに生々しい経験だったものの、オタクのクリスも否定するだろう程、非現実的である。
夢でも見たの、と夏迫に問われたら、アーサーには証明しようがない。
「まだ起きてた? ごめんね。ちょっと確認したいことがあって」
アーサーは剤という人物や胤という人物に会ったこと、微妙にすれ違っていた夏迫へ身体と自身を捧げたこと、讃での出来事を夢だという体で話し始めた。
夏迫は一切、茶化さず、アーサーの話を聞き、アーサーの話自体が終わると、言葉を発した。
「俺、今日は何だか、眠くてね。昼から寝てて、さっき、アーティー君からの電話で起きたばかりなんだ」
「え?」
「それで、夢の中では讃って町にいて、俺はその町にある胤君の雑貨店の手伝いをすることになるんだけど、何日かしたら、アーティー君がそのお店にやってくるんだ。それで、剤さんの庵で、俺は俺をアーティー君にあげてね……凄く幸せな夢だった」
夏迫は優しく口にすると、「お互い、同じ夢を見ていたんだね」と続ける。
夢というのは実感としては頼りない感じもあるが、夏迫も同じ経験をしていたという事実にアーサーは胸が熱くなる。
「ああ、すぐにでもあとぅしに会いたいよ」
そのアーサーの言葉は悲観に満ちたものではなく、熱を含んだもので、夏迫も答える。
「俺もアーティー君に会いたいな、会いに行きたい」
夏迫の言葉にも以前のような、どうアーサーと向き合えば良いのか迷うような、たどたどしさはなく、アーサーに届く。
それはアーサーが何よりも欲しいと思っていた誕生日のプレゼントだった。
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