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第26話

「そろそろ、こちらは準備ができたが、帰り支度はできたかな?」  話には入って来なかった剤はどうやら、アーサーと夏迫が元の世界に戻れる為に準備をしてくれていたのだろう。  それに、胤が「ああ」と言い、夏迫が「はい」と言い、アーサーが「うん」と言う。  一応、この4人の中では42歳の夏迫が1番年上で、時点で38歳の剤、23歳の胤、もうすぐ21歳を迎えるアーサーなのだが、性格やお互いの関係性が彼らにそう返事させる。 「今度はアサ殿の世界にもお邪魔してみるかな?」  剤はアーサーに言うと、「是非」と返すアーサーと夏迫に丸薬を渡す。  多分、剤から渡された丸薬を飲めば、この世界とも、剤達とも別れてしまうのだとアーサーは思う。  ちなみに、絢菜達には既に昼間、別れを告げて、それぞれを描いた絵を渡した。 『あれ? 私だけ2つある?』  絢花と絢葉には1本ずつ巻子を渡し、絢菜には2本の小中の巻子を渡す。小さな巻子には絢花と絢葉同様に、絢菜が描かれていたが……。 『帥さんと私……』  大祭のあった日、絢菜は祭りへ行かず、讃の町外れにある墓地へと来ていた。  大祭は紛争終結した年の翌年から始まったものだが、大祭の行う日。その日は紛争終結した日と同時に、絢菜の夫である帥が落命した日でもあった。 『折角の大祭の日に水差すと悪いからさ、絢花や絢葉姉にも言ってなかったんだけど』  と言い、絢菜は墓石の底に埋めてある、アーサーに帥の肖像画を見せる。肖像画が描かれてから既に16年もの年月が経っていて、帥を描いた岩絵具は褪せていた。 『帥に会ったことがないから細かいところは想像なんだけど』  とアーサーは絢菜に巻子を渡すと、絢菜はいつも、膳を用意してくれた時がそうであったように笑っていた。 『ありがとう、アサ君』 「ありがとう、絢菜。ありがとう、剤」  丸薬を口に入れたアーサーの視界が大きくぐらりと揺れる。身体に痛みがある訳でもなく、呼吸などがままならず、苦しいという訳でもない。  アーサーは腕を伸ばすと、夏迫を抱き寄せる。 「あ、あとぅし」 「アー、ティー君」  アーサーは剤達の目の前、夏迫が土間の上に倒れるのを庇いながら意識を手放した。

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