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第25話

「やはり、元の世界とやらに帰るのか?」  讃での大祭はあっという間に終わり、アーサーと夏迫は讃で過ごす最後の夜を剤の庵で過ごしていた。  庵にはアーサーと夏迫、庵の主の剤、それに、先程の問いを発した胤がいた。 「うん。師父さんや奥方さん、胤君には凄くよくしてもらって、家族がいたら、こんな感じだったのかなって思えたよ」  夏迫の両親は既に離婚していて、彼らの子どもは夏迫1人で、兄弟はいなかったという。おまけに、家庭を作ろうと籍を入れようした女性と破局してしまい、そう言った意味では夏迫にとって、胤達は夏迫が思う家族のようなものだった。 「別れるのは寂しいけど、俺はアーティー君と生きれたらと思う」  夏迫の誠実でどこか気弱な告白に、まるで、馬に蹴られたような様子で胤は額に手を当てる。 「男が自ら決めたことをそのような風に言うな」  ジュン。つまり、夏迫のことだが、「ジュンが幸福であれば、それで良い」と胤は照れながら言う。  最初は師父や奥方様に言われ、渋々、雑貨店での仕事を教えていたのが、夏迫の勤勉な様子に丁寧で無駄のない巻子の扱い方や確かな慧眼で壱級鑑定人となりうるだろう仕事振りに惹かれていくまでになっていた。それだけに自身の思い人である剤とは違うが、胤なりに良好な関係を築けそうだと思っていたのだろう。  だが、もし、胤が夏迫の立場であれば、胤も剤との仲を祝福して欲しいと思う。 「息災に暮らせ。師父も奥方様も言っておられた。私もそのように願っている」  アーサーが見たところ、胤はツンとした人物ではあるが、向けられる言葉はまるで兄が年の離れた弟に向けるように優しげだ。 『稀代のツンデレか、クーデレか……』  元の世界に残している画家仲間であり、オタクのクリスが胤を見ると、そんな風に言いそうだと、アーサーは思った。

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