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第24話

 アーサーが讃にやって来て、4回目の夜が明け、3回目の朝。  讃の年1度の大祭は前祭を経て、大層賑わっているらしい。 剤の薬種屋は閉まっているものの、時折、人の楽しそうな声や楽器のような音が聞こえてくる。 「何だか、楽しそうだね……」  散々、アーサーと肌を重ねた夏迫はようやく、薬が抜けて、やや夢の中にいるような様子で、既に起きていたアーサーに言う。 「うん、楽しそうだ」  アーサーは夏迫への返事をしつつ、絵筆を置くと、布団から身を起こしたばかりの夏迫の傍へ行く。 「身体は大丈夫?」 「うん、ちょっとふわっとしてるけど、嫌な感じじゃないよ」  まるで、楽しく酒が飲めた日の夜のようだと言うと、夏迫は謝る。 「あ、ごめん。アーティー君はまだ……」 「良いよ。あと何日かで僕も21だし、あとぅしが僕の生まれ年の良いワインをくれるみたいだから」  アーサーはシャトー・マルゴーか、シャトー・ディケムかもと予想する。  アーサーの父、ハーバード・ベル氏は現ベル財団の総責任者であり、美術品の収集や若手画家への援助の傍ら、ワインの愛好家としても、知られていた。 すると、夏迫は「それも考えたんだけど」と言い、充電の節約の為に電源を落としていたスマートフォンを見せる。  シンプルなブラウンのカバーに包まれたスマートフォンには爽やかな真っ白なエチケットに、鮮やかな青の2人の男性達の横顔。  『作品番号1番』という意味を持つ、カルフォルニアの最高級のワインだった。 「君はこれからも沢山の作品を描くと思うけど、いつでも、妥協なく、最高の作品を描くことができるように」  『作品番号1番』というのは美術じゃなくて、音楽用語からつけているみたいだけどね、と夏迫は笑うと、アーサーも笑う。 「良いのかな? 僕はあとぅしももらったけど。あ、勿論、返品不可だけど」 「うん。もう実は、3ヶ月前から分割で払い始めてるしね。というより、俺もアーティー君、返品不可でもらったし。しかも、もう誕生日も過ぎたのに」  夏迫は冗談めかしながら言うと、再び、スマートフォンの電源を落とす。  そんな夏迫にアーサーは我慢できずに、夏迫を布団に押し倒すと、キスを落とす。  とあるワインのエチケットの、東と西を向く2人の男性達とは対照的に、互いに向き合って。

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