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第4話 調べものと事件
カタ カタ カタ カタ タターン
僕は今、佐藤が買ってくれたノートパソコンを使っている。
先日、給料をためてやっと購入を決意したので、パソコンやら機械全般詳しいという佐藤を連れて大手電機店へ向かった。
佐藤のくせにパソコンかよ、ガラケーユーザーなのにと思ったが、作業員名簿とか図面とかのために今はガテンもパソコンくらい使えるそうなのだ。
パソコン俺、作ろうか?と意味分からないこと言われたけど、僕は基本アイドルの動画とかサクサク見たいだけなのだ。
会計の時に、いいよ、と言ったのに、佐藤は昭和の、自分のツレに金をださせない男子なのだ。
これでは、誘った時点で金を出せと言っているみたいだから、次からは気をつけよう。
そして今はアイドル動画ではなく、大事な事を検索中だ。
全国の指名手配犯の検索だ。
なぜか、そう。
佐藤が掲載されていないか確認しているのだ。
だって、よく考えたら、佐藤のようなおっさんにしては羽振りが良い気がするのだ。
パソコン、10万したんだよ!?
もちろんニコニコ現金払いだ。
きっとカードとかローンは出来ないのだ……佐藤は反社会勢力だから……。
建設関係には多いってテレビで言ってたし!
きっと奴はそっちの世界に足を突っ込んでる下っ端のおじさんなんだ。
先日あった早瀬さんがその筋の偉い人に違いない!
できれば、佐藤からはその道から足を洗ってほしい。
借金は無いらしいし、今より稼げなくても平和で真っ当な暮らしをしたい。
そのためにも、佐藤がどんな悪事に手を染めているのか確かめなければ!
きっと優しい佐藤の事だから、人を傷つけるようなことはしていないはず……
「…ん?」
外から佐藤の声がするぞ。
何か訳分からない言葉を喋っている。
佐藤がガラケーで話をしながら、入ってきた。
僕はそっとパソコンの画面をアイドル動画に変える。
佐藤が通話中だから、目配せだけで挨拶をする。
それにしても、何語なんだ?
「じゃあな」
最後だけ日本語で電話きった佐藤。
コンビニ袋をテーブルに置いて手を洗っている。
その後ろ姿に声をかける。
「佐藤、今の何語?」
「あ?よくわかんねぇけど、トルコの山岳地帯から来た奴らの言葉」
奥さん、聞きました?
わからないけど、通じるの?
1歳くらいの子と、ぴゃぴゃぴゃとか、あーあーとか、んんんで会話するのり?
そんなのあるか!
「なんで、そんなの喋れるの?」
「あー?今、現場で元気なのは外から来た奴らばっかりだぜ。まぁ、ウチでは使ってねぇけど。中国、ブラジル、インド、トルコあたりの奴らは現場でしょっちゅうあうから、何となく覚えるよな」
覚えないよ。
僕は小学校から習っていた英語、未だに単語止まりだよ。会話にならない。
こいつ…無意味にちょいちょいαだな。
しかもαだったら英語とかフランス語とかドイツ語のイメージなのに…。
兄さんたちもそんなだった。
ま…まさか!?
佐藤、お前……密入国の斡旋をしているのか!?
貧しくて困っている人たちを放っておけず!?
だから斡旋している国の言葉しゃべれんの!?
なんてこった……。
あっ、いやいいのか?
殺人や強盗に比べたらいいのか?
いや、良くないだろ。違法は違法!
「佐藤、まさか…その人たちの面倒みてたりしないよね?」
「ん?なんで知ってるんだ?」
NO!!
駄目だぁぁぁ!!
やってたよ、手を出してた!!
のんきに座ってイチゴジャムパンとか食べている場合じゃ無いぞ!!
バレたら捕まる? それって捕まるの?
罰金とか?そっち系?
「なんだかんだ、通訳させられたり、日本の生活様式教えたり、ウチのマンション貸したりよぉ……おい、千歳聞いてっか?パン食うか?」
あぁ、全くなんて男に惚れてしまったんだ……。
もしかして、あれか、塀の中に入る日が来てしまうのか、佐藤!
僕は嫌だ!何年も離れて暮らすなんて!
そんなの嫌だ!
「おい、千歳?肉まんの方が良かったか?なら買ってくるぞ」
まっていろ佐藤!
僕が、お前を足抜けさせてみせる!!
でも、どうやって……ここは兄たちに相談するしかないか……。
「なんだよ、お前のシュークリーム今日置いて無かったんだからしょうがねーだろ……なぁ口聞いてくれよ。」
何とかして、僕らがずっと一緒に暮らせる方法を考えなければ!
「よし、ちょっくら一件先のコンビニ行ってくるわ」
何故か佐藤が突然立ち上がった。
これから大事な相談があるのに、どこに行くつもりだ!
引き留める為に僕も立ち上がった。
「なんだ?一緒に行くのか?そういえばお前の好きなアイドル雑誌出てたぜ」
「買いに行く!」
今月号は、みりりんが表紙なのだ!
みりりんに癒やされてからにしよう。
僕らは連れ立ってコンビニに向かった。
コンビニって何で面白いのかなぁ?
雑誌でしょ、お菓子でしょ、ジュースでしょ…毎日来ても楽しい。
色々買うと高いから気をつけているけど。
「おい、馬鹿佐藤!家にもう色々買ってきているのに、また沢山買おうとするな!」
大きなカゴを手にとった佐藤の手からカゴを奪い、元にもどす。
僕は今、雑誌だけを買って帰るんだ。
雑誌コーナーに向かうと、コンビニの前を通った男が目に入った。
ん?
なんだか見たことある。
あの覚えやすい、水原しげり漫画に出てきそうな、出っ歯の眼鏡。
何だっけ?どこで見たんだっけ?
「どうした、千歳?」
僕がうーんと唸っていると佐藤が近づいてきた。
「あの、今コンビニに入ってきた男どこかで……」
「全員動くな!!!金を出せ!!」
「っ!?」
男が鞄から何かを出して、店員のおじさんを脅した。
佐藤が素早く僕を背中に追いやった。
「きゃーー!!」
「騒ぐな!!」
他のお客さんが悲鳴を上げる。
うそ!?あれって拳銃!??
「・・・モデルガンだな」
ぼそっと佐藤が呟いた。
何で分かるの!?
何で!?
それって、本物手にしたことあるからでしょうーーー!!
がしっと佐藤の背中にしがみつく。
「……佐藤」
やっぱりお前、密入国斡旋以外にもヤバいことしているの!?
「……千歳、心配するな、アイツ雑魚だ。通報したし。」
小声で佐藤が言った。
いつの間に!?
でも、危ないでしょ。いくらモデルガンだって。
刃物とか持っているかも知れないし…。
まぁ、でもここは、素直に店員さんがお金をだして終われば……。
「あっ、あの男、指名手配犯の安田原だ!」
「きさま!?」
しまった!?
つい、大きな声で言ってしまった!!
だって、さっきパソコンで見たんだもん!!名前も顔も特徴的すぎて覚えちゃったんだよ!!
「うおおお!」
安田原が拳銃を手に此方に向かってくる!
どうしよう、っていうか撃たないのはやっぱり脅し用だから!?
「…ちょっと下がってろよ」
佐藤が僕を軽く後ろにトンっておした。
「あっ…」
僕は2、3歩下がらされて…
安田原が拳銃を持つ手で佐藤に殴りかかる。
佐藤が奴の右手をひねり、軽々と床に倒した。
「ぐああああ!!ごほぉ!!ぐえ!痛ぇ!!いてええよ!!」
拳銃がポロリと落ちて、安田原はうつ伏せに倒れ、その上に佐藤が全体重で膝で潰すように乗り上げた。
安田原の開いている左手も捕らえられて背中で、取り出した佐藤のメジャーで縛り上げられた。佐藤……すごい器用…。
「くそう!離せ!!おっさん!!てめぇ!!」
安田原が無様に佐藤を罵っているけれど、完全に佐藤に対してびびっているのか表情が弱い。
「これ以上暴れるなら関節外すぞ」
佐藤がぼそっと言い放つと、大人しくなった。
周りにお客さんたちがワラワラとよってくる。
「お客様!?大丈夫ですか!?」
「……あのおじさん凄い……」
「何者!?」
人々の視線が佐藤に集まる。
佐藤は周りに目もくれず、僕の方にやって来た。
「大丈夫か?千歳、お前警察24時間とか見てんのか?よくわかったな。怪我してねぇよな?」
優しい目で心配そうに尋ねられて…
やばい
さとう格好いい!!
抱かれたい!
ドキドキとキュンキュンが止まらない!
恋のサイレンがピーポーピーポー!!!
ピーポー!?
警察きたぁあああ!!
まずい!まずいよ!
佐藤は職務質問とかアウトだよ!!
逆に逮捕だよ!すねに傷があるんだから!
「千歳?どうした?怖かったのか?」
「う…う…」
言葉が出ない。もう佐藤格好よすぎだし、超好きだし、たとえ何年か檻の中でも僕ちゃんと待ってるし!!
会えないの凄い寂しいけど、仕事が休みの週末には毎回面会に行くよ!!
でも、いやだ、まだ結婚してないし、番になってないし、捕まるのはせめてそのあとがいいよぉ……
もっと佐藤と一緒に居たいよぉ……
僕の涙腺が崩壊する。
あぁ、佐藤が、安田原と警察に連れて行かれちゃうよぉ…
「おっ!おい!悪かった!怖い思いさせて!!なっ、もう大丈夫だぞ!な、泣くなよ…どうしたらいいか、わかんねぇだろ」
佐藤がオロオロと僕の涙をTシャツを引っ張り拭って、抱きしめる。
「よし、よし泣くなよぉ」
頭をポンポンされる。
優しくされると、もっとつらい。
だって、お前今から捕まるだろう…
ほら、警察が入ってきたよぉ
「うわぁぁ、佐藤がぁ、佐藤がぁ」
もはや僕は号泣している。
佐藤がドナドナされる、警察に。明日からはもう会えない。
よぉ!なんて帰ると家に上がり込んでいる事も無い…
髭のジョリジョリもお預けだ。
現場に持って行く弁当とか作ってみたかった、肉づくしの茶色いやつ!
あぁ…佐藤の馬鹿!!なんで逮捕されるんだよ!!
「ち、ちとせ!?俺のことを心配してくれたのか?」
「あだりまえだぁよぉ、すきだから…」
「…千歳…お前…」
涙でちゃんと喋れない。
佐藤が泣きそうな顔で僕を見ている。
後ろで安田原が連行されていく。
「あの逮捕に協力していただいた方ですよね」
あぁ、お終いだ。
日本の優秀な警察がやって来た。
「ぶえぇぇ、佐藤は悪い奴じゃないんですぅ!」
涙と鼻水ぐちゃぐちゃで言いつのり、警察官が笑っている。
「大丈夫ですよ、逮捕に協力して頂いて、犯人が多少かすり傷を負っても罪には問われませんよ」
「え?」
「かわいらしい方ですね」
え?なにどいうこと?
バレてない?まだ佐藤バレてない?
でも身元聞かれたら不味いよね!
「あぁ、悪いが話はソイツらに聞いてくれよ、帰って良いか?」
「ええ、お連れの方を休ませてあげてください」
あれ?いいの?帰っていいの?
がしっと佐藤の胸に抱きつく。涙と鼻水を佐藤のTシャツで拭いて警察の人に聞こえないように、小さな声で話す。
「佐藤が無事で良かった」
「……千歳!!」
あぁ、やっぱり好き。
今度は僕がお前を助けるからな、佐藤!
なんとしても、佐藤をお天道様のあたる道に進ませる!
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