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第8話 佐藤の華麗なる一族
早瀬さんに航助兄さんのマンションまで送って貰った。
顔見知りのコンシェルジュさんが顔パスで入れてくれたので、ダッシュでエレベーターに乗り込んだ。
あぁじっとしていられない。
エレベーターの中だけど走りたい!
どうしよう!
兄たちは佐藤のことヤクザだと思っている。
大変な誤解だ!
そのせいで佐藤が責められてしまう!
早く助けなきゃ!
ポーンとエレベーターが開いて、航助兄さんの部屋の玄関まで走り、ドアを叩く。
「僕だよ!開けて兄さん!」
ガチャっと鍵が開く音がして、部屋の中へ雪崩込む。
「佐藤!!」
開けてくれた航助兄さんを置いてリビングにはしった。
「よお、千歳」
「……」
あれ?
ダイニングテーブルでお茶を飲む、出雲兄さんと佐藤。
あれれ?
意外と打ち解けています?
「久しぶりだね、千歳。元気だったか?」
「あっ…うん出雲兄さんも?」
戻ってきた航助兄さんが椅子を引いてくれた。
僕も着席する。
「あぁ、可愛い千歳が運命の番を見つけたと言うからいてもたってもいられず帰国したけど……佐藤さんは千歳が思っているようなヤクザじゃないよ」
良かったぁ、なんだかわからないけど、こっちの誤解も解けてる!
「あっ、うん。そうなんだ。ごめん佐藤誤解してて」
佐藤の方を向いて謝った。
あれ?もしかして少し怒ってる?
佐藤の怖い顔初めて見たかも…。
どうしよう…。
「それは別にいいんだが、千歳はなんで早瀬の所に行ったんだ?」
えっ、それバレてるの!?
早瀬さん佐藤にメールとかしちゃったの!?
佐藤の顔が怖い。
「あの…えっと…佐藤がヤクザだと思ってたから……その組の偉い人だと思った早瀬さんに……佐藤のことを解放してってお願いしに…まぁ誤解だってわかったんだけど……あはあは…はは」
気まずくて頭をかく。
なんか三人とも顔が怖いよ!
「お前は!!危ないことするな!」
「ヤクザだと思って組にのりこんだのかい!?」
「誤解じゃなかったらどうなってたことか!兄さん千歳が心配だぁ」
怒られてしまった。
意外と三人は気が合うのかな。
「だって…佐藤には危ない世界にいてほしくなかったし…」
「それでお前が危険な目にあったら俺はどうしたらいいんだ……」
佐藤が立ち上がり、僕の腕を引いて抱きしめた。
兄さん2人の前だけど…
嬉しい。無事に帰って来られて。
「お前が俺を思ってくれることは嬉しい。でも、頼むから危ない事はしないでくれ」
「うん、もうしない。ごめんね佐藤」
佐藤の胸板におでこを擦り付ける。
堪らない、包容力!
あぁ好き!
離れたくないから、もう暴走しないぞ!
「佐藤さん、千歳は良い子ですが、ちょっと抜けてるので、どうか、くれぐれも、くれぐれも宜しくお願いします
ね」
出雲兄さんなんでそんなに強調するの??
「目を離すと禄なことしないからな」
ちょっと航助兄さん!今言い返せないからって!!
「はい。全力で守ります」
きゅーーーん
きゅーーん
きゅーん
苦しい!佐藤がかっこよくて辛い。
「まぁ何だかんだ千歳は、私達の想像の斜め上を行くのですね。まさか佐藤三郎太を釣り上げるとは…」
えっ?なんか出雲兄さん、凄く佐藤のことを認めてない??
「本当だよな、まさかこんな大物とは…」
あれ?航助兄さんまで??
もー、また佐藤のジゴロ魅力発動??
勘弁してよぉ!
凄く反対すると思ってた兄二人を魅了してるなんて…。
まったく…佐藤は僕のだからね!
最難関二人をあっさりと攻略した佐藤は、次は両親に狙いを定めた。
この二人は容易いと思う。
うちの両親は母が社長で、父が秘書だ。
業種が化粧品の開発販売やサロンの経営で、あっちこっち飛び回って講演もしたりしているので、数年先まで予定が埋まっている。
会いたい、会いたいと佐藤が連絡し続けたら、なんとか隙間を見つけた両親が突然呼び出してきて、会ってもらった。
基本母は、失敗も経験と考える人なので、何も文句も無く、出雲兄から話が通っていた為か父も不束な息子ですが…なんて言っていた。
こう言ったらなんだが、今日も健康的に汗流して働いてますの作業着姿できた、おっさんに可愛い息子をあげていいの?と逆に聞きたい。
所要時間10分くらいだよ!?
いいの?佐藤で!?
おっさんだよ!?
なんなら母さんの9歳下だよ?
佐藤とこれで正式に結婚できるし番になれるし…まぁ何ていうか、ついにセックスとかしちゃう感じ?なのは……楽しみだけどさ。
正直拍子抜けだった。
さすが母。大雑把だ。
だって出雲兄さんの名前は、出雲で講演に行ったときに妊娠がわかっての、出雲だし。
航助兄さんは空港で気持ち悪くなってスタッフに助けられての妊娠発覚で航助だし。
まぁ僕、千歳ですよ。そういう人なんだ。
僕がオメガだって分かった時も
「あんたは、オメガの天辺に行ける気がするわ」
とわけのわからないコメントをした。
家族唯一のオメガだった事にショックだった気持ちがバカらしくなった。
そんなこんなで、無事結婚が認められた僕たちだが、僕には1つ気になる事がある。
「おぉ…いい匂いだなぁ。なんか手伝うか?」
昨日は佐藤がラーメンを奢ってくれたから今日は僕がカレーを作っている。
今日はカレーだとメールしたら、ちゃっかり駅前のボサテンでロースカツを買ってきた。
そういう気がつく親方気質?…好き。
まったく佐藤のくせに気が利く。
なかなかできないぞ、こいつめ。
「大丈夫。すわってて」
「おう」
そうそう、気になっている事なんだけど。
それは華麗なる佐藤一族への挨拶である。
両親は他界してしまっているらしいが、佐藤建設の親戚はいるんだろう?
挨拶とか行かなくていいのかなぁ?
それともやっぱり変わり種でのけものにされているのだろうか…。
くそぉ、僕の佐藤を……。
佐藤の良さがわからないとは、なんて可哀想な奴らなんだ!
めちゃくちゃ優しいんだからな!
でもここは、親戚になる手前、挨拶くらいは必要かもしれない。
「なぁ佐藤。お前の華麗なる佐藤一族にひとこと必要か?」
もしかして気まずい関係だと困るから、顔を見ないで背を向けたまま聞いた。
ルーが焦げ付かないように、かき回す。
「あ?俺のカレーに砂糖ひとさじ?いらねぇ、いらねぇ。必要ない。そんなに甘いもんじゃねぇだろ。そのままで十分だ」
「…そうか、甘くないのか…」
やっぱり苦労したんだな、佐藤!
両親は他界しているし、親戚は、冷たいし、なんて孤独だったんだ。
涙が出そうだ。
でも大丈夫。これからは僕も居るし!
「なぁ、佐藤。僕たち結婚したら温かい家庭を作ろうな」
「…千歳…もちろんだ!」
よし。
カレーが出来たぞ。
ご飯によそってカレーかけて、佐藤の買ってきてくれたかつのせてっと。
「そういえば、千歳。結婚式はどうする?」
カレーを食べながら佐藤が言った。
結婚式??
「結婚式するの?お金勿体無いし写真ぐらいとれば良いんじゃない?」
「はぁ!?しないのか結婚式!あれだろ、皆500人くらい招いて、総理大臣とか来て、好きなアーティストとかに歌って貰って、ゴンドラに乗って登場するだろ?」
僕もまだ人の結婚式なんて行ったこと無いけど、佐藤も無いんだな。
どんな有名人だよ!
やっぱりアホだな佐藤!
でも夢くらいはちゃんと聞いてあげるからね、佐藤夢子ちゃん。
「それで」
「あー?わかんねぇけど、見たことあるシェフとか板前とかがいっぱい来てて色々提供してて…どでかいケーキが出てきたり、2人の再現映画とかあるだろ。お前の早瀬へのカチコミは絶対に入れるだろ?」
なにそれ、佐藤めっちゃドリーミー。
面白い!
まずい笑いそう。
「その後、まぁダイヤモンド散りばめたブーケ投げたり、退場するときはオープンカーに空き缶いっぱいつけてガラガラ言わすんだろ?」
「ぷはははは!!無理!絶対無理!!アハハハ!」
ごめんね、ユメーコ佐藤。僕耐えられなかった!!
愛してるけど、それは無理。耐えられない。
「どうした?」
「却下!写真館で写真のみで。佐藤のフォーマル姿は見てみたいから。きっと、まぁ、カッコ良いんじゃない?」
ちょっと面と向かって言うのは照れくさい。
「千歳!!早くお前と番になりてぇぇ!」
「うん、そうだね」
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