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第9話 豪邸が建っちゃうよ
「新居を探す?」
僕の仕事が休みの日、午前で解体の仕事が終わった佐藤がやって来た。
佐藤の仕事はサラリーマンと違い、色々な現場に行くから移動が多く、朝がとても早いけれど、作業が終われば仕事が終わるので、やたら早い日もある。
結婚の承諾も出たし、ありきたりだけど良い夫婦の日に婚姻届を出そうという話になっている。
そして、その次のヒートでめでたく番になる予定だ。
番になったら、もう抑制剤も飲まなくて良いし、一緒に住む予定なのだ。
「このアパートじゃだめなの?」
まぁ、大きい佐藤と住むには凄く狭いけど、暮らせ無くないっと思う…頑張れば。
「さすがに狭ぇだろ。布団二枚引いたら足の踏み場もないだろう?」
たしかに…佐藤の私物を持ち込むスペースが無い。
あぁ、念願の一人暮らしの為に探した僕の城ともそろそろお別れなのか…楽しみだけど、ちょっと寂しい。
警備員の仕事をしているお隣さんもいい人だったし、目の前の家の青年も何時も同じ時間に出社で、ちょっと仲良くなれた。
下にすむ在宅勤務のサラリーマンもとても親切にしてくれた。
そういえば、前に住んでいたお隣さんとか、いつの間に引っ越したんだろう?
何時も良い匂いのご飯作ってたなぁ。急な転勤とかかな?
そう言えば、新しく越してきた人たち、誰も料理とかしないのかな?
良い匂いしてきた事無いよなぁ。
「で、千歳の希望はあるか?直ぐに引っ越したければ、俺の城も空いている部屋あるぞ?」
佐藤の城…。
あぁ、日雇い労働者の宿みたいなやつ?佐藤の隣の部屋に住む感じ?
んん…でもなぁ、僕古い家は良いけど、せめて清潔な家が良い。
風呂トイレ共同とかは、ちょっと……いや、お金に困ったならしょうが無いけど。
「ごめん。もうちょっと綺麗なところが良い…」
「そうか?まぁ築何年か経ってるしな。やっぱり新しいのが良いよな」
佐藤が何か言っているが、僕は今、数字の入った考え事をしているから聞こえない。
僕の給料が手取り大体20万位で、佐藤が……35万位かなぁ?もっといってる、40万位?
僕が直ぐ妊娠した場合、産休って無給?だとすると、やっぱり、多くて10万位にしたいよね…。
僕の職場から近くて、東京、神奈川、埼玉、千葉の現場が近い立地…。
無くない?やっぱりここで良くない?
そうだ!此処を借りたときに相談に行ったスムーモのお店に行って相談してみよう!
「ちょっと考えて調べてみる!」
「おう!俺も探してみるぜ。いやぁ…楽しいなぁ…新居かぁ…夢が膨らむぜ…」
おっ?また佐藤夢子になっているぞ…
まぁ夢を描くのは無料!いくらでも楽しんでいいよ、佐藤。
「ちなみに佐藤はどんな家が良いの」
「あぁ?まずは、セキュリティだろう。家の耐震性、耐火性、災害時どうなるか、治安だとか…」
なんだ、現実的、ものすごいリアル佐藤。
でも東京で耐震、耐火ので治安の良いところなんて10万じゃ無理じゃないか?
「それでもって、二人で入れる風呂と」
銭湯が近いってことか…まぁ探せばあるかな?
「子供が遊べる広さの庭かプレイルーム付きで」
え?中古一軒家借りる系?まぁ予算内ならありかな。でもそうすると、やっぱり23区外か埼玉か千葉だな。
ちょっと遠くなるけど、通える距離なら…
「二人で寝るでけぇベッド入る寝室と、使いやすいキッチン」
まぁ、佐藤はシングルじゃ足出そうだよな…、キッチンもコンロが一口だと料理しづらいしなぁ。理想三口ほしいよなぁ。せめて二口。
今、レンジ置いたらおけなくてトースター買ってないけど、トースターおけたら良いなぁ。食パンは焼いて食べたい。
「トイレは二つ欲しいよなぁ、家族が増えたら…洗面所も、」
やっぱり中古一軒家借りる系?築30年くらいなら、キッチンも広くてトイレ二つあって、寝室つくれるよな!!
良いじゃん!たのしそう!
今、勝手にリノベーションとかしていい所もあるんだよな!
佐藤日曜大工とか得意そうだし!
「佐藤、良い物作れそうだよな」
「おぉ!作って良いのか!?お前、そういうの嫌かと思ったぜ!」
「え?僕、一から色々作るの好きだよ。作った方が、自分たちに丁度良いのが出来そう!なんか楽しいね佐藤!」
佐藤の作ったテーブルとか棚で暮らすのも悪くない。
将来、これも、それもパパが作ったんだよ、なんちゃって!!
ひゃー、ぱぱ凄い!!みたいな!
ニヤニヤが止まらない。
これじゃあ、僕が夢子だ。
「うおお!!俄然やる気になってきたぞ、千歳!任せておけ!俺設計から全て出来るぜ!」
凄い、佐藤!
僕何㎝とかはかるの適当にやるから、カラーボックス組み立てるのがやっとだったのに。
さすが大工経験もある。
「やっぱり頼りになるなぁ、三郎太……へへへ」
自分で言って恥ずかしすぎる。
「千歳……俺、今まで働いてきたのが初めて報われるきがするぜ……任せておけ、最高のものを作る」
そうだよなぁ、解体に大工に…オールマイティーの経験が、僕らの中古一軒家のリノベーションに最高に役に立つ!
ガテンの旦那最高。
次の休みに、やって来ましたスムーモカウンター。
「中古の戸建てですか…」
「はい、古くても良いです」
出てきたのはお腹ぷっくりの中年のおじさん。
同じおじさんでも佐藤とは大違いだな…。
書き込んだ書類を見ながら唸っている。
「失礼ですが、オメガの方ですよね?旦那さんになる方はβなんですか?」
「え?αですけど…」
βじゃないと借りれない物件とかあるの!?
「αなのに、中古の戸建てですか?」
むむむ!感じ悪いぞ、おじさん。
確かに今までは僕も、αはタワマンとか住んでいるイメージだったけど、そうじゃないαもいて良いのだ。
「大工の経験もあるんで、ちょびっとリノベーションできたりする所とか有りますか?」
「えーっとですね。やはり都内、とくに23区は10万じゃ無理ですねぇ。1年以内に取り壊しとか探したらあるいは…でもそこそこ住む予定なら、やはり千葉とか埼玉とかじゃないですかね。今お住まいのあたりも戸建てとなると高いですから」
「やっぱりそうかぁ…」
おじさんに何枚か物件の資料を貰って、近くのカフェのテラス席で唸っていた。
まったくもって生きて行くにはお金がかかるものだ。
でも、制限のある中で色々探すのも楽しい。
佐藤との新生活かぁ…。
楽しみだなぁ。
毎日いっしょだと喧嘩もするかも知れないけど、それもまた良い!
ニヤニヤ笑っていたら、隣の席の人と目が合ってしまった。
は…恥ずかしい。
多分、この人も男のオメガだ。首輪つけているし。
「さっきから、楽しそうだね」
艶々の黒髪にスマートな体型、精巧な日本人形みたいな美人のオメガだ…。
僕とは別の世界のオメガっぽい…
なんだろう、全部に高級感がある。
でも、読んでいる雑誌が【日本のα男子50選、決定版】って…メチャクチャ俗物的じゃ無い?ギャップ凄い。
でもその本はコンビニとかでも良く見る、人気のある本だ。硬いテカテカの表紙で…たしか1000円位するやつ。
出雲兄さんが載っていて、面白がって航助兄さんが買ってきたことがある。
「すいません、ニヤニヤ気持ち悪いですよね」
「そんなこと無いよ。見てて面白かったから。家探ししているの?」
テーブルに広げた資料を見て推測される。
「そうなんです…結婚することになって…」
「βと?」
「いえ、αですけど…」
あぁ、首輪つけているからかな?
普通αが相手なら、結婚する前に番になるもんね。
「そう…まぁαも色々居るからね。君かなり可愛いし、番になっていないなら、もっと良いα探せば?ほら、世の中にはこんなに良い男が沢山いるんだよ」
僕の佐藤を馬鹿にされて、凄くむっときたけど…
それよりも、彼がペラペラっとめくった雑誌が気になってしまった。
「ちょっとすいません!!!」
「あっ……いいけど…」
彼の手から、雑誌を奪い取る。
そこには、メチャクチャ格好いいαが載っている。
まずい…なんか…ドキドキが止まらない
佐藤に似てる…。
凄く…。
鍛えられた肉体が高級なスーツに包まれているα。
髪は綺麗に整えられて、サングラスをかけているので目は良く見えないけれど…
格好いい…涙がでそう…何これ…この気持ち!?
「あぁ、それね。さすがに無理だよ、佐藤建設の社長だよ。日本どころか世界のαでも特集される男だから……」
佐藤建設…あぁ…だから、佐藤に似ているのか…。
佐藤の親戚の…いとことか?
どうしよう、僕、佐藤のことが凄い好きなのに、この人の事が気になって仕方ない…。
どうして…。
僕と佐藤は運命の番で間違いないのに…
なんで、この人にも同じ気持ちになるんだろう…。
「一目惚れしちゃったの?でも諦めなよ、私、色んなαの愛人しているけど、そのクラスは世界が違い過ぎて雲の上だよ…」
「……そんなんじゃ……」
僕は佐藤が凄く好きなんだ。
佐藤建設の社長なんて…興味ない!…ない……ないんだから。
「ほら、写真のページあげるよ。憧れるのは自由だからね」
美人オメガさんが、佐藤のいとこさんの写真の部分だけ切って僕に渡す。
要らないって言いたいのに、拒めなかった。
これって浮気なんじゃ…。
「じゃあね」
僕の手の中に、佐藤との未来の住まいの資料と、佐藤のいとこの写真がある。
お店に捨てていけば良い…
見なかったことにして…
僕が好きなのは三郎太なんだから。
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