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第10話 妄想中に…

カフェから家に帰ってきた。 捨てられなかった。 佐藤のいとこの雑誌の切り抜き。 スムーモで貰った資料の間にしっかり挟んできてしまった。 破り捨てようとしたのに…破れなかった。その彼が「俺を捨てて良いのか?」と言っているような気がして。 どうしよう、これ…僕、完全に浮気だよ!! なんで!? 佐藤のこと大好きなんだよ! もしかして、予定とは違うけどヒート来るの?そのせいで、欲求不満なのかな? 運命の番なのに佐藤には我慢させちゃっていると思ってたけど…実は…僕も欲求不満?? だから、こんな勘違いを? よ、よし……ちょっと自分で慰めちゃおうかな…。 そっとズボンの中に右手を入れる。 そして、左手で切り抜きを… 「うわああ!!!だめだめ!何してるんだよ馬鹿!!僕、ばかあああ!!」 なに、佐藤のいとこさんをおかずにしようとしてるんだ!! 僕のアホ!浮気者! あんなに素敵な佐藤という男が居ながら、似ているからって他人を…そんな…なんて酷いやつだ…。 ズボンから手を出して、切り抜きを投げ捨てる。 ドンドンドン 「石川さん!なんだか叫び声が聞こえましたけど大丈夫ですか!?」 「っ!?」 隣の部屋に住む警備員の仕事をしている笹原さんだ! 僕の叫び声を聞いて駆けつけてくれたに違いない。この部屋壁薄いし…。 佐藤とニャンニャンするときも声を抑えるのに必死だ。 「なっ、何でも無いです!独り言です!騒いでごめんなさい。」 今は人に顔を見せたくなくて、ドア越しに答える。 心配してきてくれた隣人に失礼かな…。 「…そうですか、何かあったら声かけてくださいね」 「すいません。有難うございます!」 笹原さんが去って行く足音と、隣のドアが閉まる音がした。 世の中には、いい人がいるものだなぁ。 僕は玄関に背を向けて、再び部屋のほうを向いた。 ベッドの上に投げ捨てた雑誌の切り抜きが目に入る。 「っ…処分しよう!僕は佐藤だけがすき!三郎太が好き!」 切り抜きに近づいて、手に取る。 もしも、日焼けが抜けて、高いスーツを着て、サングラスをつけてキメキメにしたら、佐藤だってきっとこんな風に色気抜群の王様αになるよ! そんな佐藤に抱きしめられたらどうしよう… もちろん今の作業着で、もさもさの佐藤も好きだよ。でも、好きな人のおしゃれした姿ってまた格別だ。 普段とのギャップにきゅんきゅんする。 スーツ姿の佐藤が、僕に壁ドンして、キスとかしたらどうしよう!? うわぁああ、良い!! でも、壁が抜けるから! 佐藤ってば馬鹿力だから、うっかり壁がぬけて隣の部屋の笹原さん、こんにちはだよ!! 壁ドンじゃなくて壁抜きになる。 もう、佐藤ったら、しょうがないな。 僕を押し倒した佐藤が、スーツのネクタイを外しながら…。 千歳…って僕の名前を囁いて…… 「……っ…」 どうしよう、ちょっと勃ってきちゃった…。 これは浮気じゃ無いよ、雑誌の男性を佐藤に置き換えて妄想中だから…。 だから、これは断じて浮気じゃ無い…。 ゆるっとしたズボンをパンツと一緒に足の付け根まで下げた。 僕の息子が顔を出す。 佐藤のものよりも小さくて細くて、色素が薄いそれを、そっと手にする。 その雑誌のようなスーツ姿の佐藤が、僕に覆い被さって僕の性器を握る。 「あぁ…だめだよ…佐藤のスーツが汚れちゃう……」 今日は張り切ってオシャレしているのに… 「そんな事より、お前に触れてぇ…」 妄想の中の佐藤が、僕の性器を優しく摩りはじめる。 「……っん…」 実際の僕の手が、自分のペニスを刺激し始める。 最近はずっと佐藤がしてくれていたから、自分でやるのは久しぶりかも… 「…あっ……ぅ……」 佐藤の大きな手が僕のペニスを掴むと、すっぽり収まってしまう。 節くれ立ってゴツゴツしているのに、優しく触れてくれるから、彼の優しさを感じて堪らない。 佐藤に触れられると、いつも気持ちよくて、フワフワして、愛されていると感じることができる。 αとΩの性行為ってもっと乱暴な行為だと思っていた。 「…あ…ん…さとう……いいよ…」 佐藤のスーツから覗く胸板が逞しくて、きっと素敵…。 想像すると更にペニスが大きくなる。 だんだんと濡れてきた。 「ん…だめ……あ…」 あぁ、どうしよう佐藤のスーツに僕の精液がついちゃうよ。 それ以上擦っちゃだめ だめぇ…駄目だけど、でも、でも気持ちいいから…やっぱり……こすって、シコシコして。 「さとう…気持ちいい…」 佐藤の事が好き、佐藤に、触れられたら幸せで気持ちよくなっちゃう。 佐藤の手が少し乱暴になってきた。 鋭い目で僕を見つめて、口元は少しニヒルに笑っている。 ちょっと痛いけど…堪らない。 「んん……もう…だめ……あっ…」 実際の僕の手も、より強く自分を刺激して…完全に立ち上がったペニスから、先走りが溢れて、ぬちょぬちょと音がする。 もう少し、もう少しで、いっちゃう… 雑誌の彼が目に入った。 佐藤に見られているようで…鼓動が高まる。 「あっ……ふっ……んん!」 僕のペニスから精液が飛び出した。 切り抜きの彼の上についてしまった。 「あっ!!」 思わず切り抜きを手にしてしまい、もっと汚れてしまった。 「……千歳…」 ん?佐藤? え? 玄関から佐藤の声!? 佐藤が居たあああ!! 玄関にいつの間にか佐藤!! 佐藤の方からベッドは丸見えで… つまり他人の切り抜きを手に、オナニーをしていた姿が丸見えなわけで… 最低だ!僕! 考えていたのは佐藤の事だけど、現場は浮気じゃないか! 切り抜きを投げ捨てて、急いでズボンを上げた。 パンツの中が濡れていて気持ち悪い。 「うああああ!!ど、どこ……どこ…どこから見てたの!?」 「…多分、割と最初から…」 お…終わった。 恥ずかしさと、申し訳なさと、色々な感情が交ざって瞳に涙が溜まってきた。 「お前、これ…」 佐藤が僕の投げ捨てた切り抜きを拾い上げた。 「ごめっ!ごめんなさい!これは、違うよ!」 佐藤に嫌われる!?そんなの嫌だ。 でも疑わしいことしていたのは事実で… 「ごめん!…でも…僕……佐藤の事考えてしてたんだ!佐藤にして貰っていること考えて!!」 佐藤が凄く怖い顔で僕を見ている。睨んでいる。 やっぱり怒っているよね。いとこを見ながらだと思うよね! 最低だよね僕! 「…さとう……僕を……嫌いにならないで……うぅ……」 目をつぶって下を向いたら、涙がポタポタ垂れた。 こんなことして泣くなんてΩだけど、男らしくない…僕、かっこ悪い。 「佐藤が好き……」 「っ!!俺も好きだ。でも、悪いが、今日は帰る。このまま一緒にいたら乱暴しちまいそうだ…」 佐藤がそう言うと、急いでドアから出て行った。 僕は、その背中を追いかけることも出来ずに固まっていた。 アパートの二階にある千歳の部屋から出た俺は、階段を駆け下り、下の階の部屋に飛び込んだ。 このアパートの部屋は全部で4部屋。千歳の部屋は二階の南側で、横の部屋と下の部屋には警備員を配置しているが、それ以外の一室は空にしていた。 その部屋に入り玄関にしゃがみ込んだ。 「くそおお!!なんなんだ、アイツは!俺を殺す気か!?」 勃起しすぎて股間がいてぇ。 自然と握りしめていた拳を開くとクシャクシャになった紙が落ちた。 俺が昔、早瀬に言われて何かのPRのため雑誌の撮影に応じた時のものだ。 わざわざ、こんなもの切り抜いて、それを見てしてやがった…。 俺のことそんなに好きだったのかぁぁ!! いや、好かれているとは思ってたけどよ。 俺はアイツのそんな姿みて、抱きたくならねぇほど枯れちゃいねぇ。 あのまま、あの部屋に居たら、アイツの服を無理矢理ぬがして、欲望のまま抱いて、首輪ごと噛みついてた。 「あああ!!可愛すぎるぜ!」 本当に、馬鹿みたいに可愛い。 実際、ちょっと馬鹿かも知れないが…本当に愛しい。 人を好きすぎて悶絶するとは思わなかったぞ。 俺のこと考えながらしていただって!? 嫌いにならないでだって!? その上に、あの状況で俺が好きと言うとは…… 逮捕だぁあ! もうアイツは逮捕した方が良い。番の股間爆発罪だ。 あぁ…くそう、早く結婚してぇ!番になりてぇ! それまで、アイツを野放しにしていて良いのか、佐藤三郎太。 これは危険すぎる。 いつ、どこで、そこら辺の男に襲われるかわからない。 よし、警備を強化しよう。 あっ、しまったデザイナーと建築家と話し合って出来た新居のプランを確認してもらうのを忘れた。

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