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第22話 千歳が手にした薬って
仕事終わりに、早瀬さんに連絡をしたら、運転手つきの車がお迎えに来た。
こんな姿誰かに見られたくない。
きょろきょろ周りを見渡して、急いで乗り込んだ。
「よろしくお願いします…」
自腹でタクシーも乗ったこと無いのに、運転手つきの車…。
そわそわとドキドキで居心地が悪い。
シートは妙につるつるだし…。
あぁ、前回は佐藤の足抜けの為に行ったんだったなぁ。
今回も結局は二人の明るい未来の為に!!
「ありがとうございました」
早瀬さんのタワマンについて、部屋を目指す。
相変わらず、おしゃれが過ぎる。
佐藤のマンションは、佐藤曰く基礎のコンクリや作りが他とは別格で、超頑丈らしい質実剛健を目指して作ったと、カッコよく語っていた。
こちらも佐藤建設らしいが、こっちは安全で快適なオシャレだそうだ。
住む家でも二人の特徴が現れている気がする。
で、ドアは何処だっけ?
「あっ、ここだ」
ピーーー
玄関のチャイムまでなんかオシャレ。
ピンポーンじゃないのね。
うちのアパートは、まんまピンポーンだったのに。茶色に♪マークついているやつ。
「いらっしゃい、千歳君待っていたよ」
いつもよりラフなタートルネックのセーターとスラックス姿の早瀬さんが迎えてくれた。
眼鏡もいつものノンフレームと違うみたい。細い黒のフレームだ。
オシャレなひとは眼鏡一杯持ってるって本当なんだ…。
「おじゃまします」
「ごめんね、来て貰って。結構かさばる大事な書類ばかりでね」
なんか一杯サインするんだよね。
僕、すごく、すごく書類とか説明書大嫌いだから、ちゃちゃっと終わらせて欲しいな。
リビングのテーブルに書類とか判子がセットされている。
促されて、ソファに腰掛ける。
「……けて」
「っ!?早瀬さん!今なんか人の声が……」
奥の部屋から…なんだか助けてって聞こえたような…。
そんなまさかね…。
心霊現象!?
「ははは、ゲストルームで犬のしつけ中でしてね…お恥ずかしい」
「犬…」
人間の声がしたような…。
「見ていきますか?」
早瀬さんのメガネがキラリと光った気がする……。
なんだか怖い。これは遠慮しよう!
「大丈夫です…」
「そうですか??では、本題に入りましょうか」
再び視線をテーブルの書類に移す。
「まぁ、簡単に言うと、サブの色んな資産関係の書類とかかな」
「はぁ…」
すでにちょっと良くわからないけど言われたとおりにしよう。
だって今日の本当の目的はそこじゃない!
「千歳君、社長になってみたいとか思ったことある?」
突然の質問に思考が止まる。
出世願望ってこと?
「無いです。工場長にすらなりたくないです」
僕は今の平社員で十分です。
「ぷっ、工場長…。まぁいいや。それじゃあ役員とかは?」
えっ、あのマンションの何か役的な??
「いいえ、できれば避けたいですが、掃除当番とかならできるかも」
「…掃除当番…それは無いかな。まぁいいや、サブの言ったとおりか。全部現金化するか。じゃあここにサインして」
言われたものにスラスラサインをしていく。
危うく石川って書くところだった。
僕は、もう佐藤千歳なんだよね。
それにしてもこれは何の書類??
「早瀬さん、これは何の書類なんですか??」
「え?聞いてない?サブが死んだ後の事だよ」
え
うそ
佐藤死ぬの!?
な…なんで!?
え
あんなに元気に見えるのに!?
聞いてない!
聞いてないよ!!
もっもしかして!
だから僕と番になる事に、あんなに悠長な感じなの!?
佐藤がもう死ぬから??
そういえば、お前と居ると胸が痛いとか、苦しいとか言ってたかもしれない…。
そんな……。
嫌だ!!
佐藤が死ぬなんて嫌だ!
しかも、まだ番に、なってない!!
僕は、たとえ佐藤が病気でも、番になりたい!!
そして、なんとか二人で乗り越えたいよ!!
「早瀬さん!!お願いがあるんです!」
僕はペンを投げ捨てて、早瀬さんの、手を握った。
「えっ?どうしたの?何?」
早瀬さんが、びっくりして目を見張っている。
「僕は病気でも、佐藤と番に、なりたいんです!発情する薬をください!」
「え?…あいつ病気で番になってなかったのか……そうだったのか、早く言ってくれればよかったのに。もう勃てないのか…」
早瀬さんが泣くような仕草をした。
えっ……もう立てないくらい進行してるの!?
「今まで気力で立ってたんだ…」
「…サブ……こんなに若い嫁を貰ったのに……何てことだ…」
二人の悲しみが同調する。
僕たちは強く手を握り合った。
「最高に発情する薬を用意しよう」
「早瀬さん……ありがとうございます!」
僕は再び送り届けられてマンションに帰った。
早く、佐藤に会いたい。
今までなんで気がついてあげられなかったんだろう。
きっと凄く無理してたのかな。
ヒート起こしてセックスするにしても、佐藤に無理させないようにしないと。
早瀬さんに貰ったのは飲み薬と塗り薬だった。
佐藤のあそこに一杯塗るんだよって言ってたけど、なぜ佐藤に、塗るの??
僕のヒートを起こすのに…。
負担無く出来るように??
飲み薬も、無味無臭だからバレないとか言っていたけど、僕が飲むのに、バレないってなんで??
頭良い人の説明って、時々凡人には良くわからない。
「ただいま」
「おう、おかえり千歳」
家に帰ると佐藤が居た…。
わざわざ出迎えてくれた。
佐藤がおかえりって言ってくれる幸せ。
失いたくないよ。
僕はたまらなくなって佐藤に抱きついた。
こんなに鋼のような肉体なのに病気には弱いんだ…。
「佐藤…」
「どうした?疲れたのか?やっぱりお前に書類は向かねぇな。偉い偉い、頑張ったな」
佐藤が僕を甘やかす。
なんて男なんだ!自分が辛いはずなのに。
「佐藤、僕お風呂に入ってくる…。そしたら、佐藤が辛くなければ、しよう」
佐藤の腕のなかで、彼を見上げた。
ちょっと泣きそうになって目が潤む。
「っ!?ち…千歳!!もちろんだ!!」
佐藤の鼓動がドコン!と凄い勢いではねた!
大丈夫!?
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