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第21話 奴が来ない

佐藤に送り届けられて、航助兄さんのお家に泊まった。 朝になって兄さんと朝食を食べているのだけど、やたら固くてガスガスした体に良いパンが出てきた。 美味しいけど、やっぱりふわふわが好き。 つくづく庶民だなぁと思う。 「航助兄さん。ビックリしないで聞いてね……佐藤って…大きな佐藤建設って会社の社長らしいんだ…」 「はぁ??」 兄さんのコーヒーを飲む手が止まった。 凛々しい眉が顰められた。 「だよね!?信じられないよねー。僕もまだ信じられないよ!でも本当みたいなんだよ…」 最初のガテンの印象が強すぎて。 兄さんがカップをソーサーの上に置いた。 「千歳、今更何言っているんだ?」 「え!?」 「はじめて会った日に聞いたぞ。」 またやってしまった…。 僕だけ大分間違っていたやつだ… 「それにしても、宝石泥棒のせいで会見が中止になるなんて、お前は本当に、普通で居られないよな…」 航助兄さんが、笑いながら、スムージーを勧めてくれる。 いや、美味しいし体に良いけど…僕、イチゴオレとかでいいんだけどな… 実家では美容と健康に五月蠅い母さんが居て、忙しいからって僕が母に決められたメニューを作っていたけど…僕はもっとチープな食べ物が食べたかった。 10品目のサラダより、只のゆで卵がいいし、魚介と野菜たっぷりのアクアパッツァよりも塩鮭がいい。 カップラーメンも食べたかった。 その為に家を出たかったというのもある…。 まぁ、おかげで思春期にニキビ一つもなかったし、今でもお肌つるつるだけどさ。 「僕のせいじゃないよ。佐藤がモテるのが悪い」 「まぁ、あの佐藤三郎太だからな…おっ?来るんじゃないか?」 テーブルの上に置いている僕のスマホが着信を知らせている。 指輪を返してきてくれるっていってたけど、ちゃんと解決したのかな? さすが、佐藤。頼りになる。 「今日からお前も佐藤になるのかぁ…ちょっと寂しいな」 そうか…僕、婚姻届を出したら、佐藤千歳かぁ。 なんか、変な感じ。 徹夜明けの佐藤と区役所に向かった。 良い夫婦の日ということで、そこそこ多くの男女がいた。 さすがに男性Ωは見当たらなかったけど…。男性Ω人口少ないもんね。 佐藤はいつの間にか作業着に着替えていたので、周りに騒がれることもなかった。 書類に不備もなく、記念品とか貰って正直あっさりといった印象で終わってしまった。 佐藤のマンションに帰って来て、二人でソファに並んでまったりお茶を飲んでいる。 「これから、末永くよろしくな千歳」 佐藤が僕の頬にキスをした。 あ…甘い!! 恥ずかしくてムズムズする。 「……よろしく、佐藤……じゃないか…三郎太……あああ!!駄目!まだ恥ずかしいから、しばらくは佐藤で!!」 恥ずかしすぎて、佐藤の腕の中に飛び込んで、口に噛みつくようにキスをした。 佐藤が僕の事を優しく抱きしめながら、キスに応える。 ああぁああ!! もう!! 好きすぎて叫びたい! 佐藤のくせに!! そんなこんなで、ついに結婚した僕らは…いよいよ番になるわけだけど…。 番になるにはαがΩの項を噛む。 それはヒートの時に噛んだ方が、体内のホルモン値的に成立しやすいらしい。 特に男Ωの場合は、ヒートの時が推奨されている。 そろそろなんだよ…。 一日、二日ずれる事はあるけど… もーーーー!!! なんで来ないのヒート!! 今月飲んでないよ、発情抑制剤。 もう予定より3週間遅れている。 そろそろクリスマス来ちゃうよ。 11月でアパートも引き払って、佐藤のマンションに転がりこんだし… なのに何で来ないの、ヒートの馬鹿!! よんでないときはノコノコやってくるくせに…。 「楽しみが少し延びたな」 と佐藤は優しく笑ってくれているけど、僕は早く番になりたいし、ちゃんとセックスしたい! 佐藤が素股王になる前に。 「石川君、最近元気ないわね。結婚してガテンの旦那様とラブラブ新婚生活じゃないの?」 おなじみの休憩室で富山さんと、細川さんに囲まれた。 職場には結婚は報告しているけど、石川で通して貰っている。 富山さんへはエンペラーの写真を送ったけど、富山さんは、もっとちゃんと撮れている写真を持っていた。 何故…と聞くと、芸能プロダクションの平家さんが公式に販売しているらしい。 もちろん、全種類コンプリートしましたよ! 本当のファンなら推しの写真を怪しい業者から買っちゃ駄目よ、と言われてしまった。 「それが…ヒートが来なくて、結婚したけど、まだ番になっていないんです…」 「まぁ!そうなの!?」 何故か、二人とも俄然テンションが上がっている気がする… 「それは、もう、あれね、禁断の発情誘発剤を手に入れるしかないわよ!!」 「そして…ふふふふ!!二人の燃え上がる夜!」 なに、それ… 超あやしい薬じゃないですか… 本当にあるのその薬! 「そんなもの何処で売っているんですか?」 「そうねぇ、物語では大体怪しい金持ちとかが持っているわよね」 富山さんが頬に手を当てながら答えた。 怪しい金持ち?? 金持ちで怪しい…といえば 早瀬さん!! もってる!なんだか、絶対に持っている気がする。 しかも何か書類に一杯サインしなきゃならないらしくて、丁度呼び出されてるんだよね。 よし…今日突撃して行ってみよう! 発情誘発剤を手に入れて、佐藤をびっくりさせるんだ。

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