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夜明けの華 26

 手の甲に雫を感じ、わずかに視線を上げると、自分を見つめる肇の両目から、ぼたりぼたりと大粒の涙が零れ落ちた。 (泣いてる顔も、まだ子供だな)  蓮はかすかに頬を緩めた。  社長の事も、会社の事も、頭に浮かばなかった。  今はただ、肇が無事で良かったと、心から思った。 ◇◇◇◇◇  翌年の春、肇は学年五位の成績で、高等部へと進学した。  主席じゃなかったのかと蓮がからかうと、肇はふてくされた表情を見せた。  素行の悪いお友達との交流は切れたようだが、相変わらず学校内で親しい友人は居ないようだ。  煙草は火事の一件以来、一度も吸っていないという。 「私の人選は正しかった、が……息子に寝取られる計算はなかった」 「生々しい表現はやめてください、社長」  ベッドの上で光石に組み敷かれながら、蓮は小さく微笑んだ。 「お前は私のものなのに」  光石の唇が蓮の首筋に触れ、蓮は両腕を光石の背中へと回した。  菅谷の一件は、誤解だという社長の一言で幕を閉じた。仕事を任せる上で相談をした事は事実だがそれだけだという。真実はわからないが、蓮はどちらでもかまわなかった。  あんなにも心の支えに思っていた事柄が、目覚めたあの日から、吹けば飛ぶ程の小事へと変わっていた。 「肇よりも私の方が良いだろう? あれはまだ子供だ」  うつぶせに返され、枕に頬を押し当てたまま、蓮は「そうですね」と軽く返した。光石に腰を引き上げられ、されるがままに体勢を変えながら、脳裏では肇の姿を思い描く。光石に尻穴を舌先で揉み解されながら、蓮は、肇とのぎこちなく激しいセックスを思い返していた。 (これを知ったら、肇は、離れていくだろうか)  柔らかく解れきった蓮の身体は、熱を持った光石の屹立を、ゆっくりと飲み込んでいく。十年前に光石の身体を知った夜から、毎晩のように欲していた熱が、燃え上がる感情が、今はもう湧き上がらない。

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