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夜明けを願い、夢を見る 3

◇◇ 「原田を、俺だけのものにしたい」  ベッドの上で肇は蓮の身体を引き寄せ、額をこすりあてる。尻尾を丸めた犬のような表情でスンと鼻を鳴らしながら、キスをせがむ。蓮はそれらを愛しく思いながら、触れるだけのキスを返した。 「原田は、俺と親父のどっちの方が好きなんだ。比率で答えろ」 「比率ってお前……」  ふうと息を吐いてから肇の瞳を見つめると、肇はぶすっと膨れ面のまま蓮の顔を見つめ返した。 「わかってるよ、そういう問題じゃないって言うんだろ」  肇は社長と蓮が身体の関係を持っている事を知っている。知られたのは肇が大学一年の冬だった。肇との関係を終わらせるために架空の恋人を作り上げたものの、それが嘘だと見抜かれたあげくに社長との関係に気付かれてしまった。  光石家に深くかかわり過ぎた事をあの日ほど後悔した事はない。実の父と子の関係が悪化する原因となるなら自分はもう消えるしかないと思いつめたのだった。  けれど社長は楽しそうに笑うだけだった。何故かと問えば、息子の性格はよくわかっているから大丈夫だと返されたことを思い出す。 「俺から社長のそばを離れる事はないと言ったはずだ、それはこれからも変わらない」  あの時と同じ言葉を口にする。あの時、肇は嫌だと言った。だからもう終わりにしようと言っても、泣いて嫌だと首をふるばかりで、泥沼はさらに深みを増すばかりだった。  けれど、未だにこの関係が続いている。理由はある。 「原田、何度も言うんじゃねぇよ。お前が感情云々で動かないこともわかってるし、親父がお前を手放す気がない事もよくわかってるんだよ……あのくそ狸じじい」 「肇、実のお父上をそんなふうに言わないでくれないか、頼むから」  肇は盛大に舌打ちをした後、蓮の頭の上に顎を乗せて更に身体を引き寄せた。肇の胸に顔を押し付けられて息が苦しくても、文句は言えない。 「……絶対、あいつを超えてやる」  唸るように呟く肇の言葉に、心臓が震えた。 「俺が親父を超えて、力で奪い取るしかないんだ。あのクソ固い壁をぶち抜いて、絶対に原田を俺だけのものにする。そん時は原田、覚悟しろよ」

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