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あの日の約束
それにしたって夜は長いんだからちょっと落ち着けと、いつもより設定温度を下げて冷たいと感じるくらいのシャワーを頭から浴びた。
初めての夜かよ、なんてツッコミ入れたくなるくらい念入りに体を洗って髪を洗って。何度も深呼吸を繰り返して浴室を出る。
「──うん。ごめんね、急に」
ふと聞こえてきた司の声に、おやっと首を傾げてひょっこりと洗面所から顔を覗かせたら、こちらに背を向けて正座した司が、耳にスマホを当てていた。
(電話中か……)
静かにしないと、と思いながら着替えに袖を通す。
「うん。……ぇ? ……えーと、その……」
人の通話内容に聞き耳を立てるもんじゃないとは思うものの、広くない1DKでは、嫌でも司の声が聞こえてしまうのが申し訳ない。
床が軋む音が電話の向こうまで聞こえていませんようにと願いながら、そっとリビングへ歩いていく。
「…………うん。そう、だね?」
頷いた司の首が赤いように見えるのは、さっきまでの名残だろうか。
「~~っ、とにかく! 明日はちゃんと帰るから!」
じゃあね、と焦ったように言い切って電話を切ったらしい司が、はー、と珍しく大きな溜め息を吐く。
「…………司」
「っ!?」
驚かせるつもりはなかったのに、結果的に驚かせるような形になってしまったらしい。正座のまま少し飛び上がったように見えた司が、見たことないくらいに真っ赤っ赤な顔で振り向いた。
「……大丈夫? 家の人となんかあった?」
「ない! なんにもない!!」
「……司?」
「ちがっ……ほんとにっ」
「でも、溜め息吐いてたし……」
「だってっ、こっ──っ、」
「こ?」
「こいびとのっ、おうちにお泊りなのって、聞かれてっ……そうって言ったら、なんかっ、すごいっ、……喜ばれてっ……」
「…………はははっ」
「ちょっ、笑うとこじゃ──!?」
真っ赤な顔のままでプンスカ怒って暴れようとした体を抱きしめる。
「さいこー。かわいいもう大好き」
「……そうま?」
「……。……なんかあったんじゃないかって、心配した。……お姉さんのこととかあったし……」
「ぁ……ごめん」
「いいよ。何もなくてよかった」
「……ん」
真っ赤な顔のまましゅんとする司の頭をぽふぽふと撫でてから、シャワーしておいで、と司の目を見つめて優しく笑って見せる。
「……準備してきて、待ってるから。……ゆっくりでいいからね」
「っ……ん。……でも、大丈夫。来る前にも……ちゃんと、してきてた、から」
「つかさ……」
「こっ……こい、びとのっ、家に来るんだから! っ、ちゃんとしてくるよっ」
「……うん、そうだよね。ありがと。……じゃあ、待ってるね」
「……ん」
待ってて、と赤い顔のままで呟いてタンスから自分のスウェットを取り出した司が、赤い顔のまま洗面所へ走って行った。
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