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6 犬系彼氏との付き合い方
大き目のネットに襦袢と着物を畳んで入れ、足袋をぽいぽい入れてしまうと、そのまま弱で洗濯機を予約した。洗える着物は家でも簡単に洗濯できるから楽でいい。
昨日はびっしょりと汗をかいてしまい、ついでに別の体液もついてしまっただろうから、早めに洗っておきたかったのだけれど、さすがに朝の五時はまずい。
「おーい起きろよー」
ここから彼の家まで帰り、着替えて職場に行くのならもう時間はないくらいだ。寝室に戻って声をかける。
「うう……」
克博は朔也のクイーンサイズのベッドで芋虫のようにもぞもぞしている。
「なんであなたの方が元気なんですか……」
恨めしそうにつぶやいても仕方がない。
朔也は腕組みしてドア枠に寄り掛かった。昨日はあのままソファで一回やったが克博が満足できず、その後ベッドに連れていかれてしつこくされた。だけどまあ経験が少ないこともあって、どちらかというと克博の方が回数が多く、最後は彼の方がばてていた。四時間睡眠では疲れが取れないのだろう。
それからやっぱり、鍛え方が違う。
「毎日書類仕事のおまえに比べりゃ立ち仕事だし」
予約が混んでいたら昼すぎても座れないことなんてよくあることだ。彼は武道をやってるのかもしれないが、自分も休みの日とかはジムに通ってるから。
「……うう、もっと上手くなってあなたより早く起きてやる……」
「おおーそりゃ壮大な計画だな。楽しみにしてるぜ」
適当な返事をすると、克博はがばりと起き上がった。
「――いいんですか?」
薄暗い部屋で、一瞬視線が絡む。朔也はばちっと電気をつけた。
「……まぶしっ」
「好きにすりゃいいさ。それより朝ごはんは食べる方か? 俺はご飯派なんだけど」
「僕はコーヒーだけです……」
「そんなんだから細っこいんだよ。力も俺の方がありそうだなー」
ぷぷぷと笑いながらキッチンに引っ込み、電気ケトルに水を入れてスイッチを入れる。それから自分の分の冷凍ご飯、インスタント味噌汁と漬物のタッパー、そして先日買っておいた小女子とくるみの佃煮を出した。
克博はよろよろと起き上がり、朔也から借りたシャツと半パンのまま洗面所に行き、水音をさせてから戻ってきた。そして卵を割っている朔也の背後から、そうっと抱き着いてきた。
「あの、良かったら、ここに何着かスーツ置いてもいいですか?」
すりすりと後頭部に鼻を擦り付けてくる。
「わかった、クローゼット空けとく」
「来週も来ていいですか?」
「――おい、甘えすぎじゃないか?」
「早く上手くなりたいので」
後ろ手で頭を軽く撫でてやってから、茶碗を取るために彼を剥がすと、手が宙を泳いだ。
「ねえ、朔也さん!」
「着替え早くしろよ。遅刻すっぞ。駅までは送ってやるから」
別にあれくらいでかまわないんだけど。
昨日のことを思い出すと、腹の奥が痺れてくるような感覚があって慌ててなだめる。初めてでアレだったら上手くならなくてもいい。これ以上翻弄されたらどうなるかわからないし、身が持たないに決まってる。
前から思っていたが、もしかしたら自分はちょっと身体の内部からの快楽に弱いきらいがあるんじゃないか。だから相手が引くほどぐちゃぐちゃになってしまうんじゃないか。本来なら可愛がりたい性分なのに。
だけどまあ。
思ったような返事が得られなくて、しょんぼりしながら昨日のスーツを拾い上げている克博の後ろ姿を見ていると、胸の内側がくすぐったくなる。彼は彼で変わらないのだし、自分のスタンスを崩す必要はないのではないか。このまま可愛がってやればいいだけの話なのだから。
「とりあえず火曜の晩に連絡くれ。忙しくなかったらどっか飲みに行こう」
提案すると、ぴこっと背中を伸ばした。克博の頭には犬の耳が幻視できる。ぶんぶん振られる尻尾も見えてきた。くるりと振り向くと照れたような笑顔があった。
「デートですよね? 僕たち付き合ってるから!」
「おーおーそうだなー」
変わらずあか抜けない感じにまた愛しくなって、朔也はぷぷっと笑いながら彼のためにマグカップを出した。
了
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