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5 おまえだったら嫌じゃない〈3〉

「本当に、無理、してませんか?」  朔也が片手で彼のものを掴んで、自分の後ろの穴に押しあてると、彼が不安そうに尋ねてきた。 「してねえよ」 「でも、怖かったら……っあ、ああっ」  克博はびくっと震えてすがるように朔也の腕を掴んだ。お互いにためらっていたらいつまでもできない。ほとんど不意打ちで、切っ先を押し入れてやった。 「まっ、って、ああ」  小さな克博の悲鳴を耳に心地よく聞きながら、軽くいきんで太い部分をとりあえず通し、ぐぷんと首まで呑み込んだ。括約筋できゅっと締め付けると、違和感が走り抜けて鳥肌が立つ。 「は、」  気持ち悪い上に寒気が上がってくる。だけど何とか理性で押しとどめた。 「すご、さくや、さん」  ぎゅっと着物を掴んで、克博は胸に顔を伏せながら肩を震わせている。  そんなに気持ちいいのか。  ちらっと唇に笑みが浮かんできた。自分のことで一杯一杯だったが、自分よりも余裕がない人を見るとわずかに冷静になれる。  じゃあもう少し。腰をぐぐっと落として、半分まで入れる。ずるずると内壁を摺り上げられて膝が萎えそうだが、息を調節しながら何とか全部を収めた。 「――っ、は、――っ、」  異物を入れた気持ち悪さで呼吸が浅くなる。  朔也は克博の頭を抱えて軽く抱きしめた。なんだ、簡単じゃないか。安堵で強張りが解けてくる。あの葛藤は何だったんだ。最初から、こうしていれば良かった。 「……どう?」 「きもち、い、です」  異物を押し出そうと中の襞が動いているのがたまらないのだろう。こちらは太いものを咥え込まされて冷や汗が滲んでくるが。 「ね、さくやさん、動いていいですか?」  顔を上げて、上目遣いでねだられる。 「もう、がまん、できない」  舌がもつれてくる。  朔也は目元をほころばせた。  いいよおまえのためにやってんだから。形の良い耳にささやいたとたん、腰に手が添えられた。がっちりと掴まれて、一瞬恐怖感が立ち上る。しかしごりっと腹側を擦られて、貫く快感に声を失った。 「っ、あ」  喉に悲鳴が引っかかる。  やばい。  思ったとたん、内壁を引きずり出すように引かれ、腰が抜けそうになった。何だこれ。ぞわぞわと背中を震わせると、また太いものが狭まった筒を押し広げた。敏感になっている部分を、満遍なく擦り上げられ、強烈な違和感とともに鋭い快感が全身を駆け上がった。 「ひ――、」 「朔也、さん?」  空気が喉を通り抜ける。背中を反らせて逃がそうとするのに、彼はまた腰を引いた。骨から溶かされそうな快感に腰がへたり込みそうになる。そこを掻き分けるように、ぐぐっと押しこまれた。  硬くて曲がりもしないものが、内壁を容赦なく削っていく。気持ち悪さと快感で関節が砕け、身体を起こしていられない。ぐらぐらと上半身が揺れる。 「――、あ、ああ」  克博の肩にすがりながら何とか膝を踏ん張る。だけどもう、ソファの座面に崩れ落ちてしまいたかった。 「いい、んですか?」  克博の声が興奮でかすれている。 「よさ、そう、さくやさん」  良い、のだろうか。よくわからない。身体中ざわざわして、あちこちが震えてくる。耐えられないような痙攣が起こって、勝手に涙が出たり声が出たりする。  あのときも、こうして、突かれながら我を忘れそうになった。  強烈な快感に何もかもがさらわれて、喘ぎながら震えていたら、上から軽蔑するような言葉が降ってきた。  この淫乱、俺以外ともやってんのか。初めてだって言ってたくせに、すました顔して騙しやがって。だったら優しくする必要なんてねえよな。  違う、おまえだけだと言っても聞く耳も持たなかった。慣れてるんだから大丈夫だろ。  そう決めつけて、痛がっても苦しがっても止めずひどく揺さぶられた。嫌だ、やめてと言ってもにやにや笑うだけで、快感もあったように思うけど、苦しさの方が勝った。そしてそれ以後は冷たくされて、だから。 「可愛い」  愛しそうに、克博がささやいた。 「可愛い、朔也さん。好き。好きです」  こんなふうに言ってくれたら。ぞわぞわするような痺れに耐えながら、朔也は額を彼の肩に擦り付けた。  自分のことを大切にしてくれたら、愛でてくれたら、拗れることもなかったのに。過去の相手に恨み言が湧き出てくる。もう少しだけでも、優しくしてくれたら。  だけどもう。 「こっち、」  克博の唇が頬をかすめた。ゆっくりそちらの方を向く。涙で視界が歪んで見えない状態で、視線をさまよわせると、彼が唇を重ねてきた。  柔らかくて甘い感触の間から、熱いぬめりが這いこんでくる。舌同士を柔らかく絡め合わせて、口内がとろけたころにねっとりと引き抜かれた。舌先で追いかけると、ちゅっと口の端にキスされた。 「あなたの昔の人、馬鹿だなあって思いますよ」  布の上から背中を撫で、克博はいくぶん憤慨したように言う。 「もし初めてでこんな反応されたら、僕だったらめちゃくちゃ喜びますって。だって僕が上手いってことですよね?」 「――まあ、そうかもな」  朔也は苦笑して、一瞬遅れて返事をした。そういう発想が童貞だよなあ。だけど相手を傷つけるよりはずいぶんマシだし、一概に間違ってるとも言い切れない。 「今だって、そんときと変わらねえよ。ほとんど、十年ぶりなんだから」 「え、じゃあ」 「上手い下手じゃなくて、ただ」  喜びかけてがっかりしている克博に、付け加える。 「おまえのことが、好きだってことじゃね?」  体を明け渡すに足りる相手だと思ったから、こうなるってだけだ。運命の相手だって盛り上がることはないけれど、心底信頼できる相手なんてそうそう見つかるわけじゃない。 「えっ……あ……」  朔也の言葉を何度か味わうかのように黙り込み、克博の首から耳がぼわっと赤くなった。  うわ、可愛い。朔也はぼんやりしながら舌を這わせて軽く歯を立てた。そして中に収まっているものがさらに壁を押し広げたのを感じて、ぞわっと背中を震わせた。 「うっ」 「もうちょっと、動いてもいいですか?」  さっきまではゆっくりと中を堪能するように動いていたくせに、軽く宙に浮かした状態で腰を固定すると、自分の腰の方を動かしてぐちゅっと腹側に突き刺してきた。 「――っあ」  びりっと電流が走って声が漏れる。 「このへん、好きなんですよね?」 「いや、別に」 「すごく気持ちよさそうにしてましたよ。知らなかったんですか?」 「そうじゃ、なくっ、――て」  じっと目を見られながら、彼はその場所を狙うように、カサの張ったところで引っかける。そして何度か確かめてから、がつがつと往復した。 「あ、ああ、」  下腹部がびりびりと熱くなった。際限なく声が溢れはじめ、自分の前のものからじゅくじゅくと液体が漏れてくるのを感じる。  いいから。  自分のことは気にするな。  そう思ったが、狙いを定めて集中的に刺激されたら、ただ必死で彼にしがみついていることしかできなくなった。

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