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理不尽な恋 2(雪夜)

「夏樹さんっ!」  雑踏の中でも、すぐに見つけることができる。  身長が高いせいもあるけど、モデル並みの整った顔立ちにスラッと伸びた足。  ただそこに立っているだけで目立つ。  道行く女性の注目を浴びているその人物に声をかけるのは少し勇気がいるが、自分こそが待たせている張本人なので止まりそうになった足に力を入れた。 「遅れてごめんなさいっ!今日提出のレポートがあったのに先生がなかなか見つからなくてっ!」  息を弾ませて走り寄る。  夏樹はそんな雪夜の頭をポンポンと撫でると、 「うん、お疲れ様。遅くなるって連絡くれてたから大丈夫だよ。それに、待ち合わせ時間には間に合ってる」  と、優しく笑った。  その笑顔に、思わず胸がときめいてしまう。  確かに、時計を見ると今は18時55分。  待ち合わせの19時にはまだ5分あった。  時間には間に合ってるけど……やっぱり遅かった!  心の中で自分に舌打ちをした。  夏樹は仕事が忙しい時以外はいつも約束の30分程前には待ち合わせ場所に来ている。  雪夜がそのことを知ったのは、たまたま1時間早く着いたことがあったからだ。  それからは、雪夜もなるべく早く来るようにしている。  少しでも長く夏樹と居たいから――   「さてと、何が食べたい?」  雪夜の呼吸が整うのを見計らって、夏樹が雪夜の顔を覗き込んだ。  顔……近いっ! 「あの……え~と、じゃあ、パスタ!」  夏樹の笑顔に赤くなった自分の顔を隠すため、少しうつむき加減で、精一杯なんでもないフリをして答えた。  普段は煩わしいだけの低身長だが、こういう時には助かる。 「いいね、行こうか」  夏樹がクスリと笑った気がしたが、顔をあげて確かめる前に雪夜の手を握って歩き出した。 ***  夏樹は、この見た目なのだからモテないわけがない。  当然、女性経験も豊富らしく、こうやって二人でいると、あれ、俺ってお姫様かしらと勘違いしそうになるくらいスマートにエスコートしてくれる。  一方、思春期に自分がゲイだと気づいた雪夜には、女性経験はもちろん、男性経験もない。  相手が同性なので、好きになっても思いを伝えられるわけもなく、只々自分の気持ちを押し殺して過ごすことしかできなかった。  そして、大きくなるにつれ、周りにバレるのが怖くて、だんだんと友達を作ることもできなくなり、気がついたら一人でいることが多くなっていた。  所謂、ぼっちというやつだ。  だから、雪夜は付き合うのも、セックスも夏樹が初めてだ。  自分の性癖を恥じて、周りにひた隠しにしてきた雪夜にとって、ノンケであるはずの夏樹の行動は理解不能だ。  男同士なのに、夏樹さんはどうしてそんなに堂々と人前で手を繋いだり、頭を撫でたりできるんだろう……  付き合い始めて半年になるが、雪夜は未だに夏樹と歩くときは周りの目が気になって挙動不審になってしまう。  っていうか、夏樹さんといると、ただでさえ目立つしっ!―― ***

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