4 / 715

理不尽な恋 3(雪夜)

 雪夜と夏樹は、付き合っている。  でも、別に好きだの惚れただので恋人同士になったわけではない。  半年前、雪夜は酔っぱらって道端で倒れていた夏樹を拾って家に連れて帰って介抱した。  普段ならそんなこと絶対にしないが、夏樹の顔が名前も知らない雪夜の初恋の人に似ていたので、何となく放っておけなかったのだ。  夏樹との体格差を考えると、よく家まで運べたものだと自分でも関心する。  雪夜は、家に着くなりベッドに倒れこんだ夏樹の服を脱がせた。  結婚式にでも出ていたらしい夏樹は結構いいスーツを着ていたので、皺になってはいけないと思ったからだ。  他意はない。  雪夜も軽く酔っぱらっていたし、夏樹を運んだことで体力を使い果たしてしまい、そこで電池が切れた。  ただそれだけのことだったのだが、翌朝目覚めた夏樹は、あられもない二人の姿を見て、なぜか雪夜を襲ったと勘違いした。  その時、もしかしたら初恋の人に似ているこの男と、少しの間だけでも恋人気分を味わうことができるかもしれないという淡い期待から、夏樹の勘違いを利用して「介抱している時に酔ったあなたに襲われた」と嘘をついた。  雪夜は、この世の終わりのような顔で謝ってくる夏樹に、自分がゲイであることを打ち明け、本当に悪いと思っているならば責任を取って付き合ってくれと迫った。  内心、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていた。  誰かを脅すようなことも、こんな嘘を吐いたのも、生まれて初めてだった。  我ながら無茶苦茶な話だったと思う。  でも、雪夜にとっては一世一代の大嘘で、とにかく必死だった。  雪夜は、一回だけでも恋人っぽいデートをして思い出を作ることが出来たら、それでいいと思っていた。  しかし、夏樹は恋人になってくれという意味で受け取ったらしく、しかもそれをあっさりと承諾した。  その日から、二人は“責任”という名で縛った形だけの恋人同士になったのだ―― ***

ともだちにシェアしよう!