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理不尽な恋 7(雪夜)
駅の改札に向かう途中、ちょっと、と夏樹に周囲から死角になっている場所に引っ張り込まれた。
「ぇ?夏樹さん、どうし――」
夏樹が、周囲から隠すかのように、雪夜に覆いかぶさって、唇を重ねてきた。
ベッドの上でするようなのとは違う、簡単なものだったが、優しく甘いキスに頭が蕩ける。
短いリップ音をたてながら唇が離れた。
「……ぁ……」
「っ……雪夜、そんな顔してたら、帰してやれなくなる」
夏樹が困ったような顔で雪夜の頬を撫でた。
「ふぇ?……あ……だって、これは夏樹さんがっ!!」
「うん、俺のせいだね。だから今日のところは帰してあげる」
そう言うと、今日一番の笑顔を見せた。
ズルい……そんな顔見せられたら、俺も帰りたくなくなるよ……
「じゃあ、家に着いたら連絡して」
「はい、それじゃまた――」
「うん、またね――」
少し歩いて振り返ると、まだ夏樹がそこに立って雪夜を見ていた。
いつからだろう……夏樹さんがそうやって俺との別れを惜しむかのような素振りを見せ始めたのは……
振り返った雪夜に気づいて、夏樹が少し微笑んで手を振った。
夏樹の笑みにちょっとドキっとしながら慌てて雪夜も手を振り返すと、急いでホームに向かった――
***
夏樹さんに抱かれるのは嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
もっと甘えたり、一緒に出掛けたりしたい。
でも……夏樹さんとの関係は一時的なもの。
半年も続いていることは奇跡なのだ。
いくら夏樹さんが優しくて、本物の恋人のように接してくれるからと言っても勘違いをしちゃいけない。
夏樹さんが俺を本気で好きになるはずがないんだ。
だって俺には、夏樹さんに好きになってもらう資格なんてないんだもの……
いつか壊れる関係なら、傷口は浅い方がいい。
今以上を望んじゃいけない。
本気で好きになっちゃいけない。
深入りして、傷つくのは自分だから……
雪夜は、夏樹に会う度に惹かれてしまう自分を戒めるように、帰り道すがらずっと己に言い聞かせて歩いた――
***
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