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理不尽な恋 9(夏樹)
「恋人がさ……ヤッた後に泊まっていかない理由って何だと思う?」
夏樹は隣に座るツレが2杯目の中ジョッキを空けたところで徐 に切り出した。
仕事終わりのサラリーマンでごった返す店内、仕事の憂さ晴らしに乾杯をする人達の声を背中に聞きながら、夏樹たちはカウンターの隅でまったりと飲んでいた。
「はぁ?そりゃお前……不倫だったとか~、セフレだったとか~……っていうか、何、お前の彼女の話?」
「彼女っていうか……彼氏?」
「えっ!?……いやお前って来るもの拒まずなとこあるけど、まさか男まで!?」
そう言って両手で胸を隠す仕草をしているこいつは、高校時代からの友人の吉田だ。
お互いの職場が近いせいもあり、よくこうやって仕事帰りに一緒に飲みに行っては、仕事やプライベートの愚痴を言い合っている。
吉田は昔から明るくてみんなから慕われるリーダータイプの男で、他人を色眼鏡で見たりしない。
そんな吉田だからこそ、夏樹は雪夜のことを相談してみようと思ったのだ。
というか、ぶっちゃけ他人に相談したくなるくらい途方に暮れていた――
「大丈夫、お前に欲情したことはこれっぽっちもないから」
「それはそれで傷つくぞ!」
「いや、そもそもお前結婚してるだろっ!」
吉田は半年前に幼馴染の女性と結婚した。雪夜と出会ったのは、吉田の結婚披露宴で珍しく飲み過ぎた夜だった。
「なぁ、お前って男で勃つの?もともとソッチ系なんだったら別だけど、お前は別にそうじゃないよな?」
夏樹の女性遍歴を知っているだけに、さすがの吉田も驚いたようだった。
雪夜で勃つかって?そりゃ……
「ガチガチに勃つよ。他の男に欲情したことはないけどな」
男は今までに何人か抱いたことがあるが、どうしてもと頼まれて仕方なくだったし、全然興奮しなかったので勃たせるのに苦労した。
……そういえば雪夜にはそういう苦労はなく、最初からすんなりと勃ったな。
「彼氏限定かよ。え、その彼氏って可愛いの?美人系?それともテクがスゴイとか?」
「あ?ん~……美人系っていうよりは可愛い系かなぁ。……あぁ、泣かせたくなる系?」
雪夜はどちらかと言うと童顔女顔で、笑顔が最高に可愛い。
で、真っ赤に上気したその顔が涙でぐしゃぐしゃに歪んでる時が一番欲情する……
「……うわ、出たよ、このどS。あ~みんなこの優し気な見た目に騙されるんだよな~、彼氏可愛そうに……」
「可愛い子ほど、泣かせたくなるもんだろ?」
「お前……それ小学生男子と同レベルじゃね?好きなら優しくしてあげないと、そのうちに逃げられるぞ~?」
「ちゃんと優しくしてるよ。ただ、普段あんまり甘えたりワガママ言ったりしない子だから、それくらいしないと本音が出ないんだよ」
あんまりというか、全然ないんだよな……ベッドの上でもちょっと泣かせるくらい焦らさないと雪夜から欲しがることはないし……つまり無理やり言わせてるわけで……
あれ、じゃあ結局あれも本音ではないってことか?
「泣かせるってベッドの上でってことかよ……お前ワガママな女は嫌いとか言ってなかったっけ?」
吉田が若干呆れ顔で焼き鳥を頬張った。
「雪夜は男だし、雪夜のワガママだったらいくらでも聞ける!!」
「はいはい、それで?その~……雪ちゃん?が、泊まってくれないから何なの?」
「ん~……っておい、お前それ俺の分!」
「え、お前食べるの?」
吉田に全部食べられそうだったので、夏樹も自分の皿に焼き鳥を確保した。
「なんていうか、今までのはさ……帰りたくないって駄々をこねる女を俺が追い出すっていう状態だったから……逆パターンにどうすればいいのか……」
「あ~……んなの、泊まっていけよって言えばいいんじゃないの?」
「そう言っても泊まってくれないから困ってんだよ。お前は嫁になんて言ったの?」
「は?なんで俺?」
「参考までに」
「え~~~……俺んとこはほら……幼馴染だからなぁ~……自然とそういう流れに……」
なんだかんだで真剣に答えるところがこいつの良いところだ。
う~ん……と考え込んでいる吉田を見ていると、何だか笑えてきた――
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