11 / 715
理不尽な恋 10(夏樹)
「はぁ~……ダメだ、お前のは全然参考にならん!」
「そっちが聞いてきたんだろうがっ!」
「まぁな。……俺、怖がられてんのかな……」
「ふぅ~ん……?」
吉田が飲みかけのジョッキを置いて、意外そうな顔で夏樹を見た。
「何?」
「……好きなんだ?」
「は?……そりゃ付き合ってるんだし……」
「いいや、そうじゃなくて。本気なんだな~ってこと」
吉田がニヤニヤしながら、そうかそうか~ようやく夏樹にも春が来たか~、と背中をバシバシ叩いてきた。
「何言ってるんだよ。俺一応モテるんですけど?」
「お前がモテるのは知ってるよ。でも今までは告白されたから何となく付き合うって感じだったろ?お前が相手を好きになるってことはなかったように思うんだけど、違うか?」
確かに、告白されたから付き合ってただけで、別に相手のことを好きだったわけじゃない。
「例えばだよ、今その雪ちゃんが、他の男とイチャついてるのを見たとして、お前はどう思う?」
「雪夜はそんなことしない」
夏樹と外で手を繋ぐことだって恥じらうぐらいなのに、外でイチャつくなんてあり得ない。
「例えばだっつってんだろうが!何だよ、雪ちゃんはそんなにお前にメロメロなわけ?……あ~……んじゃぁ、今その雪ちゃんが、もう嫌いになったから別れるって言ってきたらどうよ?」
「え、別れる……?嫌い……?」
雪夜がそんなことを言うはずはない。
だって、自分はゲイだが、今まで誰とも経験がない。手を出してきたんだから、責任を取って付き合えと言ってきたのは雪夜だ。
さすがに、雪夜との出会いや、付き合うことになった過程は吉田にも話していない。
そのため、吉田は、今までの女と同じように雪夜が俺に告白してきたと思っているようだ。
別れる……ねぇ……
でも、そうか。
雪夜に他にちゃんと好きな相手ができたら……もしそうなったら――
別れると言われたら今までと同じように別れればいいだけだと思うのに、なぜか雪夜の照れた笑顔や、しなやかな身体、頬を上気させながら瞳を潤ませてぐしゃぐしゃになったあの時の顔が浮かんだ。
別れたらもう雪夜には会えないってことだし……他に相手ができるってことは、雪夜がああいう顔を他の誰かに見せるってことだよな……
なんだろう……この感情。イライラして吐き気がする。
「即答できないっていうのが、答えなんじゃねぇの?別れたくないんだろ?」
吉田の声で我に返った。
「あぁ……別れたくは……ない。向こうも(今はまだ)同じはずなんだよ。なのに、なんで……」
「さぁな、本人に聞いてみれば?お前が言うみたいに向こうも別れたくないと思ってるなら、ちゃんと話せば答えてくれるだろ?」
「……そうだな」
ちょうどその時、雪夜からメールが入った。
ゼミの仲間で飲み会をすると言っていたが、どうやらここからすぐ近くの店にいるらしい。
「悪い、俺ちょっと行ってくるわ」
「お?何、噂の可愛い彼氏?俺も見ていい?」
「ば~か、見せねぇよ!お前も嫁が待ってんだから早く帰れよ。じゃあな、今日はありがとな」
「はいよ~」
吉田はまだ飲むと言うので、自分の飲み代を置いて一人で店を出た――
***
大学の飲み会はよくあることで、これが初めてじゃない。
夏樹も大学時代には毎晩のように飲み会があったので、雪夜が飲み会に行くと聞いても、何とも思わなかった。
平日の夜は急な残業になることもあり予定が立てにくく、土日は雪夜がバイトなので、二人で会うのは金曜の夜だけだ。
連絡は取りあうが、会わない日は何をしていようがお互い干渉することはなかった。
でも、今日は……さっき吉田に言われた言葉が少し引っかかって、何となく他の友達と一緒にいる雪夜を見てみたくなったのだ――
***
ともだちにシェアしよう!