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理不尽な恋 11(夏樹)
確か、この店……だよな。
さっき飲んでいるとメールがあったくらいだから、まだ店内にいるはずだ。
が、勢い込んで来たのはいいが、そこからどうするか考えていなかった。
同じ店に入るのはさすがに変に思われるよな……
とりあえず店から少し離れたところに移動する。
「なぁ~にやってんの?お前」
後ろからガシッと首に腕を回されて一瞬よろけた。
じわじわと腕に力が入って夏樹の首を絞める。
「ぐっ……ちょっ、吉田ギブッ!!」
柔道の有段者である吉田にこれをやられるとさすがにキツイ。
吉田が、ギブ早すぎだろ、と笑いながら腕を外した。
「ゲホゲホッ!お前っ、今ダイレクトに喉っ!!」
「悪い悪い、んで、勢い込んで出て行ったくせに、何でこんなとこにいるの?」
「あ~……いや、別に……っていうか、お前こそ何でここに!?」
「え、お前マジで勢いだけで来たの?ぅわ……面白過ぎるだろお前、はははっ!」
吉田が夏樹を指差しながら爆笑する。
「ゆ び さ す なっ!」
二人でじゃれていると、店の方から聞きなれた声がした――
***
「もぉ~相川ほんといい加減にしろよ!だから、もうやめとけって言っただろ!?」
「ごめんって~そんな怒るなよ雪ちゃぁ~ん!」
「あ~もう!酒くっさいんだよっ!この酔っ払いぃ~~~~っ!!」
「雪ちゃん冷たいぃ~~~!」
雪夜と、同じゼミの仲間らしき数人が店から出てきた。
その中の一人がやたらと雪夜に絡んでいる。
でも、絡まれているわりには、雪夜も言葉ほど嫌がっているようには見えない。
へぇ……友達の前ではあんな喋り方するんだ……
雪夜の男らしい荒っぽい口調に少し驚いた。
夏樹がタメ口でいいよと言っても、気が付いたらですます口調になっているので、それがクセなのかと思っていた。
雪夜が絡んでくる友人の頭を容赦なく叩いている。
ちゃんと……大学生なんだな……
当たり前だが、同年代の中にいる雪夜は普通の大学生にしか見えない。
童顔の上に夏樹の前ではいつも顔を赤らめてモジモジしているので、もっと幼く見える時もあって、たまに本当に大学生なのか疑ってしまうことがあるのだ。
それにしても……
あいつやけに馴れ馴れしいな……あ……っ
「ちょっ、おい、夏樹!?」
考えるよりも先に身体が動くというのは、こういうことなんだろうか――
気が付くと、雪夜に抱きついていた男の手首を掴んで引き離していた。
「痛 ぇ!?」
「えっ……夏樹さんっ!?」
「やぁ、俺もちょうど近くで飲んでたんだ」
平静を装ってみたものの、この行動に自分が一番驚いていた。
やぁ、ってなんだよ、やぁ、って!
俺一体何やってんの?こっからどうすんのよ……
内心かなり焦っていたが、鉄壁の作り笑顔で取り繕う。
「ぁ、えっ、そうだったんですか!?言ってくれれば良かったのに……」
夏樹を見た瞬間、雪夜の顔に花が咲いたような笑顔が浮かんだ。
その笑顔を見て少し満足するが、すぐに周りにゼミの仲間がいることを思い出した雪夜が、表情を曇らせて視線を泳がせた。
そういえば、雪夜はゲイであることを周りには隠してると言ってたっけ。
「なぁ、雪ちゃん、こいつ誰?」
雪夜に絡んでいたやつが、夏樹を指差して聞いてきた。
「あ……あの……」
なんて言おうか困っている雪夜に軽く微笑んで、
「友人だよ」
と、夏樹が答えた。
「友人~?だって、どう見たってあんた年上だろ?」
夏樹が答えたことが気に入らなかったらしく、夏樹を上から下までじろじろと見ると、雪夜の腕を引っ張って夏樹から離そうとする。
こいつ……もしかして雪夜のこと……?
「友人に年齢は関係ないと思うけど。たぶん、君よりは親しい間柄……かな」
最後の一言は余計な気もするが、この男の不躾に突っかかってくる態度に本能的にピンときたので、無意識に牽制していた。
「は?なんだよそれ!」
「はいは~い、すと~っぷ。相川そこらへんにしておけ、お前酔いすぎ。すみません、こいつちょっと飲み過ぎたみたいで。雪夜、後は任せろ。俺がこいつ連れて帰るから。それじゃまた明日な~」
夏樹に絡もうとしていた相川という男を、後ろにいた男が絶妙なタイミングで止めに入った。
「え……あぁ、ありがとね佐々木、また明日」
止めに入ってくれたのは佐々木というらしい。
雪夜が少しほっとした顔で佐々木にお礼を言っている。
佐々木は、ニッと笑うと、ほら、行くぞ~と、相川や他のゼミ仲間を追い立てて去って行った。
***
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